卒業研究のご紹介
2021年版

情報系所属学生

ハンドトラッキングを用いたVR空間内でのキー入力方法の提案

阿部 洸也群馬県
情報学部情報メディア学科2021年3月卒業
群馬県立沼田高等学校出身

研究の目的

ヘッドマウントディスプレイの低価格化と機能統合化が進む中でOculus Questにハンドトラッキングという機能が実装された。これにより、VR空間内に自分の手が表示されるようになりこれまで以上の臨場感を感じることができるようになった。
しかし、デフォルトで実装されているハンドトラッキングを用いてのキー入力は、コントローラーを使用してのキー入力と操作が大体同じであり、ハンドトラッキングを用いるのであればいささか不便に感じる。そこで、本研究ではデフォルトで実装されている不便だと感じた部分の改善を目標にSliderを用いた新たなキー入力手法の提案・制作を行う。
研究は様々なプロトタイプ開発が他の研究に役に立ち、新しい作品として生まれ変わっていく。ハンドトラッキングは、まだ未開拓な部分が多いうえにVRとの親和性もよい。このSliderを用いた新たな試みが別の研究の参考になると幸いである。

研究内容や成果等

■ 基本原理

本研究ではOculus Questにあるハンドトラッキング機能を用いた新しいキー入力の検討、実装、評価を行う。今回制作するのはデフォルトで備わっている指から線を出すもの(以下デフォルトのキー入力)ではなく、指でつまんだ際にスライダーを動かしキーを選ぶ方法を提案する。デフォルトのキー入力で特に難しいと感じたキー選択の見やすさと選択のしやすさ、それにキーボードの大きさに左右されないことを目標に設計する。制作したものを図1に示す。

図1 実際に制作したキー入力方式

■ 構築システムの概要

Slider方式はSliderのHandleから伸びる2本の線を使い文字を選択することで、現在のキー位置をわかりやすくしている。操作対象を明確にしたため直感的な操作もしやすい設計にする。またデフォルトのキー入力と比べ、精密度を必要としないため大胆な腕の移動での操作が可能となっており、選択のしやすさはキーボードの大きさに左右されない。操作は別々の指をつまむことによるキーの決定とSliderの移動だけであり、デフォルトのキー入力に劣らぬわかりやすい設計となっている。

■ 結果

14人の学生に制作したものとデフォルトのキー入力の両方でキー入力の体験をしてもらい、どちらがやりやすかったか、またどのようなところにメリットを感じたかアンケートを行った。
実験1では、デフォルトのキー入力のほうがやりやすいと答えた人と、Slider方式の方がわかりやすいと答えた人は4:6の割合で分かれた。Slider方式の操作が複雑と答えた人の意見を考察したところ、キーの移動の仕方やUIに関してはそこまで評価が低いわけでなく、主にキーを選ぶほかに文字を消すなどの機能も指で操作できるようにしていたためと考えられた。そこを中心に改善したもので実験2を行った。
実験2を体験してもらった結果、初めて体験した人も、指定の文字を打ち終えるまでにかかった時間の平均が実験1に比べて半減された。また、前回の体験者の入力速度の向上もみられた。 

■ おわりに

本制作を終え、キー入力を可能とするうえで、視覚的に瞬時に視認できるか、操作に複雑性はないかという2点が大切だということに気づいた。操作をするうえで何をすべきかが見えていることや、操作が簡単であることは、直観的に動かすための大事な要素だからだ。
今回制作したものに対し、体験者14人中11人がデフォルトのキー入力より使いやすいと答えてくれた。
キー入力だけでなくハンドトラッキングについても未開拓な部分が多い。今後は別の点にも着目し、さらなる研究に臨みたい。
指導教員からのコメント ビジュアルコンピューティング研究室教授 佐藤 尚
具体的な研究テーマを設定するまでに時間がかかりました。人から与えられたテーマではなく、今までの自分自身のゲームやバーチャルリアリティー(VR)作品制作の経験から見つけたテーマなので、決まってからの動きはとても速いものがありました。コロナ禍で、実証実験などが大変だったと思いますが、きちんとやりきることができました。直接現地に行ったり、対面で人と会うことが難しい状況は続きそうです。そのような中でVRの役割が重要になると思います。そのためには、簡便なデータ入力方法の確立は重要な課題です。最終的には学会発表をすることができるような卒業研究となりました。これらの経験を社会に出てからも活かして下さい。
卒業研究学生からの一言 阿部 洸也
私は普通科高校出身だったため、尖った専門技術を持っていたわけではありません。それでも明確にVRを学びたいという目標があり大学1年次から時間を使ってきました。
専門分野を深めるには研究室を利用することが1番の近道だったので友達と設立したVRサークルで先生を訪問し、学外活動にも積極的に参加しました。大変だったことはたくさんありましたが、間違いなくその経験が私を成長させてくれたと思います。
この卒業研究は私が学んできたことの集大成です。この分野は学びが鍵であり、学び続けていく限り終わりがありません。毎日無限に時間が足りないと思っています。だからこそタスク管理は丁寧にすべきだと学びました。