卒業研究のご紹介
2021年版

化学・バイオ系所属学生

開閉時間の異なるシャペロニン複合体を利用した細胞内DDSシステムの評価

鈴木 達也神奈川県
応用バイオ科学部応用バイオ科学科 2021年3月卒業
神奈川県立横浜桜陽高等学校出身

研究の目的

シャペロニンGroELはカゴ型構造を持ち、フタ型構造のGroESがATPの加水分解を伴って結合し、直径約5 nmの空間をもつカプセル構造のGroEL/GroES複合体を形成する。その際に変性タンパク質が複合体内部に落とし込まれ正しい構造に折り畳まれる(フォールディング)。複合体の開閉時間はATP加水分解時間によって決まり、ATPの加水分解が終了すると、ADPとGroESが解離して内包物も放出される。当研究室では、8秒〜12日までの様々なサイクル時間を持つGroEL変異体ライブラリーを保有している。GroELはタンパク質の他に金属ナノ粒子や化合物等を内包することが可能であることから、薬剤送達システム(DDS)のためのタンパク質性ナノカプセルとしての応用を目指している。
これまで、膜透過ペプチドと核移行シグナルを付加したGroES変異体とGroEL変異体の複合体は、細胞添加後1時間以内に細胞膜内に入り、4.5時間以内に核に送達されることがわかっている。そこで本研究では、開閉時間の異なるGroEL変異体とシグナルペプチド付加したGroES変異体の複合体を用いて、核送達後の内包物の放出時間を制御することを目的とする。

研究内容や成果等

当研究室が保有するGroEL変異体ライブラリーから開閉時間が4.5時間前後であると予想されるGroEL変異体5種を精製後、正確な開閉時間を測定するためGroELに結合したヌクレオチドを定量した。その結果、開閉時間が1.0、2.8、4.6、6.0、26時間のGroEL変異体を得ることができた。また、GFPフォールディング活性測定を行い、全ての変異体でGFPを内包し、フォールディングが可能であることがわかった。
5種類の変異体の中で、開閉時間が1.0、4.6、26時間のGroEL変異体を用いて、GroES変異体との複合体に変性GFPを内包させ動物細胞に添加し、細胞内でのGFPの蛍光を観察した。予想通り開閉時間が1.0時間のGroEL変異体では核までGFPが送達されていないように見られた(図1-A)が、4.5時間以上のGroEL変異体では核までGFPが送達されているように見られた(図1-B、C)。他の変異体でも細胞でのGFPの挙動を観察し、目的の時間で薬剤を局所でのみ放出できるDDSキャリアへの応用を目指す。

図1  GFP内包GroEL変異体とGroES変異体の複合体の細胞投与像
開閉時間が(A)1.0時間、(B)4.6時間、(C)26時間のGroEL変異体/GroES変異体複合体
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
3年生までは「勉強より大切なことがある」と豪語した鈴木君でしたが、まさに実学主義で、研究目的を理解したあとは集中して実験を進め、能力が大いに開花しました。反応サイクル時間を改変させたシャペロニン変異体を用いて、希望の時間で蓋の開閉が起きるタンパク質性カプセルを作製し、内包した薬物のリリースを制御することを卒業研究で実現しました。今年は入構時間が制限されていた中で、計画性と実行力を発揮し、卒業研究着手時の目標を見事に達成しました。
卒業研究学生からの一言 鈴木 達也
自分には大学の授業は難しく、単位を取るのがやっとでした。しかし、基礎教育支援センターや図書館など勉強するには十分な環境が整っており、大学の手厚いサポートを実感できました。研究室を選ぶ際は、一番自分が成長できると思った小池研究室を選びました。当初は私の知識不足から、研究のことが分からず、同期に後れをとっていましたが、小池先生の指導の下、勉強や実験を行い、中間発表では研究室内で最も高い評価をいただくことができました。
今後社会人になっても、勤勉に努力し研究室で学んだ経験を活かしていきたいと思っています。