卒業研究のご紹介
2019年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

生物活性が期待できるヒダントイン誘導体の合成と評価

並木 瑠玖埼玉県
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻 Cコース 博士前期課程 2019年3月修了
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科 2017年3月卒業)
埼玉県立熊谷西高等学校出身

研究の目的

当研究室では、光学活性ヒダントイン誘導体の簡便な合成法を開発し、この手法を用いて種々の新規ヒダントイン誘導体を合成している。その一環で、サリドマイドに構造が類似したヒダントイン誘導体の合成に成功している。すなわち、ヒダントインの3位にグルタルイミドあるいはスクシンイミドを有した化合物群である。サリドマイドは多発性骨髄腫の市販薬として再認可された化合物であることから、本化合物群も同様な作用を示すことが期待でき、いくつかのヒダントインは「抗がん活性」を示すことを見出している。さらに「ナトリウムチャネル阻害活性」や「β-セクレターゼ阻害活性」を示すことを明らかにしている。今回更なる活性の向上を目指し1、2のイミド部分あるいはヒダントイン1位の窒素原子から伸長することを計画し、置換あるいは共役付加反応による誘導化の検討を行った。

研究内容や成果等

フェニトインに代表されるヒダントイン誘導体は神経系に作用する活性化合物であるが、ヒダントインの誘導化についての報告例は少ない。今回、塩基存在下各求電子試薬を作用させたところ、求電子試薬の種類により反応部位が異なることを見いだしたので報告する。3位および5位に置換基を有する光学活性ヒダントイン1に求核試薬としてアクリル酸エステルを作用させたところ1位の窒素原子が攻撃した共役付加が進行し、2を与えることがわかった。一方、ベンズアルデヒドを作用したところ5位の炭素原子が攻撃した付加体3を与えることがわかった(eq.1)。

eq.1

ヒダントインの5位が攻撃する例は少なく、1位および3位が置換された化合物に適用される例が知られている程度である。そこで、ヒダントイン5位での反応性を検討する目的で各種求電子試薬を作用させた。すなわち、1にシンナムアルデヒドを作用させたところ、ヒダントインの5位に付加したアルコール4のみを確認した。本反応では1位が攻撃した共役付加体5は確認できず、ヒダントインの攻撃位置は求電子試薬の構造に依存することがわかった。(eq.2)

eq.2

指導教員からのコメント 教授 山口 淳一
ヒダントイン (Hydantoin)は生物活性物質として19世紀から知られている化合物であり、ヒダントインの構造を有している薬もあります。その効果を高めるためには、新しい部分(置換基といいます)をヒダントインへ導入することが必要であり、新たな導入方法を開発することが不可欠となってきます。反応条件を変えながらいくつかの反応を検討した結果、簡単かつ狙った場所に置換基を導入する方法(位置選択性といいます)を見つけました。並木君が見いだした導入法は、様々な構造を持つヒダントインへ変換できることも示しています(汎用性があるといいます)。今後この方法を利用して、さらに生物活性を示す化合物の合成が可能になったといえ、今後の研究結果に期待できます。最後に並木くんが合成した新しいヒダントイン誘導体の構造を示します。

修士研究学生からの一言 並木 瑠玖
高校の普通科から化学系を学びたいと本学の応用化学科に進学しましたが、化学が漠然と好きで、やりたいことが決まっているわけではありませんでした。大学1年次で基礎を学び、2,3年次から始まる専門科目で有機化学を選択し、新規化合物の合成や反応に興味をもち研究に取り組みました。3年間の研究では多くの失敗を踏まえてどのように解決すべきかを考えることで自己解決力が身につきました。そして先生方や友人、先輩、後輩とさまざまな議論ができたことはとても有意義であったと思っています。