卒業研究のご紹介
2021年版

化学・バイオ系所属学生

イオン交換膜製塩法におけるKCl高回収条件の検討

越地 哲平神奈川県
応用バイオ科学部応用バイオ科学科2021年3月卒業
神奈川県立横須賀明光高等学校出身

研究の目的

現在、日本のKCl(塩化カリウム)資源は99%が海外からの輸入に依存しており、将来的に世界的な人口増加やバイオ燃料などの要因から高騰が起こると考えられ、日本でもKClをもっと生産すべきだと考えた。日本におけるKClの生産は、主に海水からイオン交換膜で処理したかん水を蒸発晶析によってKClが析出を始める点まで濃縮し、苦汁(NaClを回収した後の残液)を冷却して行われている。一部の製塩工場では、苦汁を蒸発晶析によってさらに濃縮することでKClの回収量を増やしている。しかし、苦汁の濃縮が進みすぎるとMgCl2との複塩であるカーナライト(KMgCl3・6H2O)が析出してしまい、KClの純度が低下する。また、カーナライトの析出条件については不明な点が多い。
本研究では、KCl回収率に対する苦汁の濃縮度(KCl析出点より濃縮させた苦汁の濃縮倍率の影響)を明らかにすることを目的とした。

研究内容や成果等

■ 実験方法

(1)晶析試験
本実験ではモデルかん水組成を基に、モデル溶液を1L作製した。溶液組成をTable1に示す。溶液の条件は、純塩率(かん水の全塩分濃度中のNaCl濃度。以下PNaCl)を製塩工場の平均値である90%と製塩可能な最小値である85%に設定し、濃縮度をそれぞれカーナライト析出領域前後の値になるまでTable1の組成に掛けてモデル溶液を作製した。

Table1 Composition of model solution
作製したモデル溶液を加熱及び撹拌(70℃、300rpm、1h)し、苦汁とした。苦汁は分析用に採取し、残りを冷却及び撹拌(25℃、200rpm、24h)、吸引ろ過によって固液分離した。苦汁と結晶の成分は塩試験方法に従って分析した。

■ 結果および考察

(1)析出物に対する濃縮度の影響
結晶の組成分析結果をFig.1に示す。濃縮度を上げると一定の値まではKClのみが析出し、それ以上ではMgCl2も析出した。PNaCl 90%では濃縮度1.55、PNaCl 85%では濃縮度 1.18以上がカーナライトの析出域となることが確認された。
(2)KCl回収率に対する濃縮度の影響
上記(1)で確認されたKClのみの析出域におけるKCl回収率をFig.2に示す。KCl回収率は濃縮度とともに増加した。PNaCl 90%では濃縮度1.50において73%、PNaCl85%では濃縮度1.12において71%が最も高いKCl回収率であった。
(3)カーナライトの析出条件
結晶のMg/Kモル濃度比と苦汁のMg/Kモル濃度比の関係をFig.3に示す。PNaCl90%と85%ではいずれも同様の傾向を示した。苦汁のMg/Kモル濃度比率が2.83(図中の直線と横軸の交点)を境に異なる挙動を示し、低い領域ではKClが、高い領域ではカーナライトが析出するためと考えられる。KCl析出点から濃縮を進めるとPNaClに関係なく苦汁中の Mg²濃度が増加し、K濃度が直線的に低下する。Mg/Kモル濃度比が2.83からカーナライトが析出を始め、析出した結晶中のKClがカーナライトに変化したと言える。以上の結果から、Mg/Kモル濃度比を2.83より低くすることで、カーナライトの析出を抑制しKClの高回収が実現できる可能性が示唆された。

Fig.1 Precipitation behavior of KCl and MgCl2

Fig.2 Recovery rate of KCl

Fig.3 Precipitation tendency of Carnallite
指導教員からのコメント 膜分離工学研究室教授 市村 重俊
海に囲まれた日本には独自の製塩技術である「イオン交換膜製塩法」があります。越地君の研究は、この方法を利用して高い回収率と純度で海水から塩化カリウムを得ることでした。新型コロナの影響で大変な一年でしたが、頑張った甲斐もあり、多くの知見が得られました。また、共同研究先の企業ではとても大切にされました。研究に対する真摯な姿勢と天性の明るさからです。これからも周りの人への感謝を忘れず、大きく成長してください。活躍を期待しています。
卒業研究学生からの一言 越地 哲平
本学では、研究を通して社会人になるために必要なことを学ぶことができます。実験をするにあたって、まず既往の情報を集め、要件定義をして目的をつくります。その目的を達成するための方針をたて、そこまで一通り終えたら、研究に必要な実験を行えるのです。私が当然のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、研究の中で実験は一部であり、それまでの結果としては見えない行動すべてを含め研究であると教えられました。この考え方は研究だけではなく全ての仕事に応用できると考えています。大学で学んだことを活かし、社会人となっても精進していきます。