卒業研究のご紹介
2020年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

超好熱性古細菌からの新規耐熱性のメチル化酵素の取得と特性評価

林 真央神奈川県
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻Bコース 博士前期課程1年
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科 2020年3月卒業)
神奈川県立横浜桜陽高等学校出身

研究の目的

DNAのメチル化は、真核生物では遺伝子の発現を制御、次世代に受け継がれる(ゲノムインプリンティング)など、原核生物ではR-M System、複製時のマークなど、重要な役割を担っている。またメチル化異常が起こるとがん、精神疾患、アレルギー疾患など重要な疾患を引き起こすことが知られている。
DNAのメチル化酵素は、真核生物、真正細菌、古細菌に存在していることが知られている。しかし、超好熱性古細菌由来の耐熱性の性質を持つシトシンの5位を修飾する酵素は報告が未だにない。そこで本研究では、超好熱性古細菌のメチル化酵素APE_0872.1の特性を明らかにすることを目的とした。この古細菌由来のタンパク質は耐熱性の性質を持つことが知られており、本酵素も同様に耐熱性であることが推定される。本酵素の特性が明らかとなることで、進化の過程解明の一助、新規解析法への応用などが期待できる。

研究内容や成果等

■ 実験方法

(1) pCold I-APE_0872.1 in E. coli JM109株を用いた増殖阻害の調査
前任者が構築した発現系で、APE_0872.1による大腸菌の増殖阻害が観察されることが明らかとなっていたが、より詳細を調査することを目的とした。形質転換体をLB液体培地中で37℃で一晩培養し、OD600=0.45になるように希釈した。希釈したサンプルを用いて、10倍希釈系列を7段階分作製した。作製した希釈系列より5µLとり、アンピシリンを含むLB寒天培地に滴下し、37 ℃で一晩培養した。なお、発現誘導を行う際は、IPTGをF.C.= 0.1, 1.0mMを塗布したものを用いた。またコールドショックを行う場合は、15℃で30分インキュベートした。
(2) APE_0872.1のメチル化活性評価
前任者の構築した形質転換体を用いて、APE_0872.1のメチル化活性を評価することを目的とした。アンピシリンを含むLB液体培地中で、37℃で一晩培養した後、15 ℃の水で30分間コールドショックを行った。その後IPTG(F.C.= 0.1mM)を添加し、15℃で一晩培養した。in vivoにおける解析では、アルカリミニプレップ法によりプラスミド抽出を行い、バイサルファイトシーケンシングを行った。in vitroにおける解析では、超音波破砕により抽出後、90℃で10分間加熱処理し、His tag精製を行った。精製したものを限外ろ過によりメチル化反応用のReaction Bufferへ置換後、Amp R配列上のアンプリコン(180bp)、SAM、Reaction Bufferを混合し、一晩反応させた。その後、バイサルファイトシーケンシングを行った。さらに、MTase-GloTM Methyltransferase Assayを用いてメチル化活性の評価を行った。なお、基質はOligo DNAを使用した。

■ 結果および考察

(1) pCold I-APE_0872.1 in E. coli  JM109株を用いた増殖阻害の調査
APE_0872.1を含む形質転換体において、IPTG誘導を行った際に、増殖阻害が認められた。本研究室において、APE_0872.1はde novo型のGCWGCを認識し、2-Cにメチル基を転移するメチル化転移酵素であるという知見が得られている。このことから、大腸菌のgDNAまたはプラスミド上にAPE_0872.1がメチル基を付加し、増殖阻害を引き起こしていることが予測された。また、APE_0872.1の継代を行い、同様に実験を行うと増殖阻害が起こらなくなった。シークエンス解析の結果、APE_0872.1配列上に変異が認められた。よって今後は、グリセロールストックから起こしたサンプルを用いることとした。
(2)APE_0872.1のメチル化活性評価
図1にメチル化活性評価の結果を示す。Aがin vitroにおけるバイサルファイトシーケンシング、BはAssayの結果を示す。Aにおいてメチル化されている場合GCTGTとなり、メチル化されていない場合GTTGTとなる。なお、どちらもpCold I(空ベクター)をネガティブコントロールとして用いた。

図1 メチル化活性評価
バイサルファイトシーケンシングにおいて、スペクトルの面積より、in vivoでは78%が、in vitroでは96%がメチル化されていた。AssayにおいてはpCold Iと比較した場合、有意差が確認できた。よってAPE_0872.1がメチル化活性を持つことが確認できた。現在、修飾されるメチル基が、塩基のどの位置にあるかを検討している。
指導教員からのコメント 生物制御科学研究室教授 飯田 泰広
1年生のころから4年間大変良く頑張りました。授業の合間に研究室に来て実験をしたり調べものをしたり、とても大変だったと思います。4年生になると授業がない分、研究に集約でき、実験量が相当増え結果も伴うようになりましたね。4年生なのに大阪での学会発表やバリ(インドネシア)での国際学会発表など、アクティブな経験をしましたね。大学院進学後もさらに成長していってほしいと思っています。
修士研究学生からの一言 林 真央
3年間、「Stop the CO2 Project」 に参加し、他分野を学ぶことへの敷居が低くなり、色々なことに挑戦できるようになりました。「Stop the CO2 Project」に参加し、1年次から研究を行うことで、考え方や取り組み方を学べ、成長できたと感じています。また、サイエンスインカレにも出場することができました。さらに本学科の授業では、教科書の内容はもちろん、最先端のことも学べるので興味や視野が広がりました。また本学の図書館は、蔵書や学術雑誌が揃っていて、自習する環境も快適なので、学びたいだけ学べました。その成果で4年次に国際学会にも参加することができました。