卒業研究のご紹介
2020年版

情報系所属学生

ディープラーニングを用いた紙幣の識別番号の認識

栢沼 大地神奈川県
情報学部情報工学科 2020年3月卒業
神奈川県立西湘高等学校出身

研究の目的

紙幣の偽造犯罪は古くから存在しており、国内外問わず偽札は発見されています。その偽札のほとんどは同じ識別番号であり、これを認識、記録、判定出来る方法を提案し、将来的には紙幣の計数機などに組み込むことで偽札の流通量を抑えることが出来ると考えました。一般的な文字の認識方法としてパターン認識という既存の方法が存在しますが、複雑な背景がある場合に認識が困難な為、紙幣の識別番号の認識には向いていません。そこで本研究ではディープラーニングに着目し、複雑な背景を認識文字と合わせて学習を行うことで紙幣の識別番号の認識を試みています。

研究内容や成果等

■ 提案手法

(1)実験環境
本実験におけるハイパーパラメータ表1とCNN(Convolutional Neural Network)の構成図を以下の図1に示す。

表1 ハイパーパラメータ

図1 CNNの構成図
(2)英字への適用
最初に数字と英字に対して図1のCNNを用いて学習させる。その結果は表2に示すとおりであり、数字と英文字を学習させた場合、その認識率は低下している。これは認識する文字が増えるために、出力先も増え、その結果学習の精度が低くなるものと考えられる。よって、複数の文字を合わせて学習させることは認識率の低下の要因であると考えられる。結果から、先行研究において認識出来なかった文字は、バリデーションデータとして抽出されてしまい、学習が行われていなかったと考えられる。

表2 学習データの入力の順に変更を加えた場合
(3)アラビア語数字への適用
(2)に示す以上に文字の種類が増えた場合として、多くの国で用いられているアラビア語数字を新たに加える。アラビア語数字単体でCNNに学習させた場合の結果を表3に示す。

表3 アラビア語数字へ適用した結果
この結果より、アラビア語数字に対してもCNNは適用できると考えられる。
(4)文字の種類が増えた場合に対する提案法
(2)より、文字の種類が増えた場合、正答率が下がり、これは本稿における課題の1つである。この課題を解決する為に、文字の種類が単体であった場合のCNN正答率が高かったことに着目し、図2および図3に示す2つの方法について検討を行う。図2の場合は各々のNNに対して、全てのデータを入れる方法である。図3はNNを1つ追加し、文字の種類を判別した後に各NNにデータを入れる方法であり、2段のCNNの構造となる。

図2 今回検討した方法(方法A)

図3 今回検討した方法(方法B)
表4にこの実験の結果を示す。従来法とは、文献[2](略)を拡張させ全ての文字種をまとめて学習させた場合を指す。 

表4 文字種が増えた場合の適用結果
この結果より、文字の種類を判別する方法Bの2段のニューラルネットワーク構成の方に、正答率の向上が見られた。

■ まとめ

本稿では、 “複数文字への適用”、 “文字の種類が増えた場合への適用”の2つの実験を行った。その結果、文字のカテゴリごとでは極めて高い正答率を得ることが出来、それを用いた2段のNNの構成では、文字の種類が増えた場合にも高い正答率を得られ、提案法の有効性を明らかにした。
指導教員からのコメント 信号処理応用研究室教授 木村 誠聡
栢沼さんが取り組んだテーマは企業との共同研究の一環であり、ニューラルネットワーク(Deep Learning)を用いた種々の紙幣の番号を認識する研究になります。紙幣の柄と番号は重なっており、従来の画像処理ではうまく番号だけを抜き出して認識することができない問題を、栢沼さんはDeep Learningの処理を工夫することで従来の文字の認識率の向上だけでなく、多段にしたネットワーク形態の検討によって、新たに加えたアラビア文字の認識をさせた功績は大きいものがあります。これによって文字の種類をどんなに増やしても問題が生じないことになります。栢沼さんは企業の技術との触れ合いや国際学会での発表を経験したことで、今までにない世界の広がりを感じたと思いますし、これからの人生の中でもターニングポイントであったと思います。栢沼さんのこれからの社会での活躍が期待されます。
卒業研究学生からの一言 栢沼 大地
大学生活を通して学びの楽しさを知ることが出来ました。1、2年次は理解に及ばず、暗記で乗り切っていたことも多かったのですが、3年次はまるで伏線回収のように暗記していた点と点が繋がった瞬間に「勉強って楽しいものだ」と感じることが出来ました。それと同時に自分の勉強不足も浮き彫りとなり、さらに勉強しなければいけないと考えるようになりました。まだまだ勉強不足だと感じることもありますが、この経験は一生活きてくると思います。