卒業研究のご紹介
2020年版

電気電子系所属学生

赤色光が人体の温熱感へ与える効果の検証

佐々木 柊神奈川県
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程2年
(創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科 2019年3月卒業)
東京実業高等学校出身

研究の目的

LED照明の赤色光が人体の温熱感へ与える効果について研究しています。近年では、蛍光灯に代わりLEDが一般照明として使用されています。LED照明は蛍光灯照明に比べ、消費電力が少ないため、省エネにつながっています。私たちはさらに省エネにすることはできないかを考えました。そこで、フルカラーLEDを用いたLED照明を使用し、光色による効果を利用して省エネに役立てることはできないかと思いました。今回は夏季の冷房より、冬季の暖房の方が使用電気量の値が高いことから、温暖効果の見込める赤色光に着目して研究をしました。この研究が進めば、新しい家庭環境をつくる一歩になると私は思っています。

研究内容や成果等

■ 実験概要

Fig.1に照度試験室を示す。実験室は10.5畳の一般的な家庭の一室に模した部屋にし、LED照明(東芝ライテック社製 LEDH81718LC-LT3)を天井に2つ設置した。実験の評価項目は心理的評価のVAS(Visual Analogue Scale)と生理的評価としてウェアラブル心電計(myBeat)によるLF/HFや体表面温度のバイタルデータの測定、サーモグラフィカメラ(NECAvio製 InfRec-R300S)による顔表面温度の測定を行った。照明光色はECHONET Liteで制御し、すべての光色は照度を79lxに統一した。実験で使用した白色と赤色光のxy色度座標をFig.2に示す。

Fig.1 Illumination light color laboratory

Fig.2 x-y Chromaticity diagram of the light color using the ceiling lights

■ 実験方法

実験時間は30分間に設定し、2日に分けて行い、時間帯による測定データの違いをなくすために2日間の実験の開始時刻を統一した。
実験室のシーリングライトの色を1日目は白色、2日目は赤色として実験を行った。実験環境は、照度79lx、室温22℃、湿度40%±10%であり、実験中にはこちらで用意したビデオを見させた。被験者には条件を統一するために、実験を行う前に室温24℃、実験室と同じ照度の前室で30分間安静に過ごしてもらった。また、着衣量を統一するため服装もこちらで用意したジャージ上下に着替えさせた。実験中は顔表面温度を赤外線サーモグラフィカメラで測定し、体表面温度と心拍周期、LF/HFをmyBeatで測定した。myBeatは体表面温度の正確な測定に時間がかかるため前室から測定を開始し、被験者の「みぞおち」に装着させた。サーモグラフィカメラの測定間隔は10秒間に設定し、被験者の眉間を測定データに使用した。

■ 考察

(1)生理的影響の評価
LF/HFの測定結果をFig.3に示す。白色と比較してストレスを感じているのが5人、ストレスを感じていないのが5人となり、最高で+0.82、最低で-2.02、平均で-0.193となった。ストレスの感じ方には個人差があり、赤色光によるストレスの影響を断言することは難しいと考えられる。
顔表面温度の測定結果をFig.4に示す。室温24℃の前室から22℃の白色照明が点灯されている実験室に移動した場合、顔表面温度は外気温の差により時間変化で0.24℃低下したが、22℃の赤色照明が点灯した実験室に移動した場合、顔表面温度は外気温の差に反して0.32℃上昇した。この結果から赤色照明には顔表面温度を上昇させる効果があると考えられる。

Fig.3 Measurement result of LF/HF

Fig.4 Measurement result of face surface temperature
(2)心理的影響の評価
Fig.5にVASの「暖かさ」の測定結果を示す。白色と比較して赤色を暖かく感じているのは10人中7人となり、最高で+55、最低で-4、平均で+21となった。赤色光での暖かさの感じ方には個人差があるが、赤色光はヒトの温熱感に関して影響を与えるということが考えられる。

Fig.5 Measurement result of VAS (warmth)

■ まとめ

赤色光が人体の温熱感へ与える影響を検討し、以下の結果が得られた。
・my Beatによる[LF/HF]の心理評価ではプラスになる人とマイナスになる人に分かれた。VASとサーモグラフィとの関係性も見られなかったため、赤色照明が[LF/HF]に影響を与えることは確認できなかった。
・室温24℃の前室から22℃の白色照明が点灯されている実験室に移動した場合、顔表面温度は外気温の差により時間変化で低下したが、22℃の赤色照明が点灯した実験室に移動した場合顔表面温度は外気温の差に反して上昇した。この結果から赤色照明には顔表面温度を上昇させる効果があると考えられる。
・VASの結果で赤色照明が心理的に暖かく感じる事から、心理的に暖かく感じている際に生理評価である顔面表面温度も上昇する。
指導教員からのコメント 照明工学研究室教授 三栖 貴行
本研究は、人間の感性や生理的評価を数値化する試みを行っており、誤差や個人差が生じやすい内容であるため実験環境の整備や被験者の状態の把握が課題になっています。研究担当の佐々木君は大学4年次から継続しており、実験環境の提案だけでなく、IoTによる照明制御も行っています。本研究が実現されれば暖房を皆さんが今、使用されている設定温度から1℃下げることができるかもしれません。エアコンの場合、設定温度を1℃下げることによって消費電力は10%低減されると言われています。家庭だけでなく大きな商業施設や工場では照明の台数も増えますのでその効果は大きくなると見込まれています。
佐々木君には内定先の東芝キャリアで照明制御で培ったIoT制御の知識、照明に関する知識をフル活用して頂き、活躍して欲しいと心から願っています。
修士研究学生からの一言 佐々木 柊
この研究では被験者実験とそこで得られたデータの解析を行いました。被験者実験においては人に対して実験を行うため、実験での注意点や被験者の方への配慮を忘れないよう心掛けました。解析においては役割分担を決め、スムーズに作業をこなしました。また、研究成果を学会で発表し、質問をされた時の受け答える能力や、プレゼンテーション能力が身につきました。多々苦労する場面や大変なことはありましたが、そのたびに指導教員の三栖先生に助けていただきとても充実した研究ができました。