卒業研究のご紹介
2020年版

電気電子系所属学生

マイクロ波によるカーボンブラックの燃焼

袴田 大樹青森県
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程2年
(創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科/電気電子特別専攻 2019年3月卒業)
青森県立三沢高等学校出身

研究の目的

大気汚染抑制のため、「船舶排ガスの浄化」に関する研究に取り組んでいる。WHOによると、大気汚染による早期死亡者数は年間で420万人にも上ると言われており、世界中で重大な問題である。船舶の排ガスにも様々な原因物質が存在する。燃料であるA重油は、ガソリンよりも多くの硫黄分を含み、硫黄を主成分とするPM(PM2.5もこの一種)が多く発生する。大きさは1mmの10000分の1と非常に小さく、肺の奥深くまで入り込むため、多くの疾患を引き起こすといわれている。このPMを除去するために、電気集塵装置の利用が検討されている。陸上では工場等で使用され、静電気力により99%以上を捕集できる。しかし、実用的には捕集したPMを処理する装置が必要となる。そこで私は、電子レンジにも使われる「マイクロ波」を利用し、PMを加熱・燃焼させる研究を行っている。船舶用の電気集塵装置を実用化し、世界中の人々の安全な暮らしを守ることが私の研究目的である。

研究内容や成果等

■ 実験方法

実験装置の概略を図1に示す。実験装置はソリッドステート電源(200W/ 2.45 GHz, SAIREM製)、ガス分析計、同軸導波管変換器(L=140mm, エーイーティー製)、導波管(L=600mm, エーイーティー製)、短絡板(t=5mm, エーイーティー製)によって構成した。導波管内の寸法は、縦幅54.6mm、横幅109.2mmであり、終端に短絡板又は無反射終端器を設置し、波長147.9mmの定在波又は進行波を発生させた。導波管内のマイクロ波の分布をCST STUDIO SUITEによる電磁界解析から求め、定在波において磁界が最大となる短絡板から74mmの位置にCB(日本粉体工業技術協会, JIS試験粉体1)を2g入れたるつぼ (ムライト、15 ml) を配置した。なお、CBの配置位置は導波管の中心軸上と中心軸から壁面方向に36.6mmの位置とした。マイクロ波の出力は、定在波では50W、進行波では100Wとし、CBの燃焼が自然停止するまで照射した。マイクロ波照射後、燃焼率ηを照射前のCBの質量M0と照射後の質量Mの比から算出した。

■ 結果及び検討

定在波と進行波における燃焼率とCB配置位置の関係を図2に示す。定在波において、CBを中心軸上に配置した場合、燃焼率は22%であったが、壁面側に配置した時は0.2%であり、ほとんど燃焼しなかった。これに対して、進行波を用いた場合、中心軸上と壁面側のCBの燃焼率は、それぞれ44%と47%であった。すなわち、進行波を用いることで燃焼率を著しく向上させることができた。これまでの研究で、CBはマイクロ波の磁界成分よりも電界成分で燃焼することが分かっている。よって、これは進行波にすることで電界成分が時間と共に移動したためといえる。以上より、進行波を利用することで均一な燃焼となり、捕集ダストの燃え残りを抑制できることが示された。

図1 実験装置の概要
Fig.1. Schematic diagram of experimental system

図2定在波と進行波における燃焼率とCB配置位置の関係
Fig.2. Relationship between combustion rate and location in standing wave and traveling wave
指導教員からのコメント 電気応用研究室教授 瑞慶覧 章朝
電気集塵装置とは、粒子状の物質を集め排ガスをきれいにする装置です。従来は、集めた粒子状物質を振動、空気圧や水圧などを利用して、機械的に装置内から再回収する必要がありました。本研究では、マイクロ波を用いて電磁的にそれを実現しようとしている点に特徴があります。電機メーカーとの共同研究でもあり、袴田君は、企業の研究者とともに実験・議論し研究を進めています。自らアイデアを提案し、次から次へと工夫、シミュレーションと実験を繰り返しています。企業の研究者からも絶大な信頼を得えており、その成長には目を見張るものがあります。
修士研究学生からの一言 袴田 大樹
私は環境エネルギー特別専攻に所属し、様々な分野を学びました。一番印象的なのは特別専攻海外研修です。大学4年次に1か月間、カナダの企業と大学で研修を行い、忘れられない経験をしました。研修の後、日本に帰国した私は、カナダの大学での研究留学を熱望しました。そこで、留学支援制度に応募しました。毎日必死で選考対策に励み、準備は万全でした。しかし、研究室で不合格を知り、悔しさに泣き崩れました。この経験から、将来は世界を股に掛けた仕事がしたいと思っています。研究では、夜遅くまで実験したり議論したりと、有意義な時間を過ごしています。それらを全て自分の糧にし、いつかこの目標を実現したいと思っています。