卒業研究のご紹介
2018年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

コラーゲン構成成分がもたらす正常細胞への作用

松田 絵里山形県
応用バイオ科学部応用バイオ科学科 2018年3月卒業
山形県立山形北高等学校出身

研究の目的

ヒトと共通した遺伝子を多く持つ線虫では、コラーゲン遺伝子をノックアウトすると寿命が短縮することが報告されるほか、所属研究室でコラーゲン構成成分が線虫の寿命を延ばすことが明らかとなった。このことから、コラーゲンと老化は密接な関わりがあると示唆される。本実験では、ヒト正常細胞を用いて細胞レベルの老化に対するコラーゲンの関与と、線虫を用いた研究で明らかになったMAPキナーゼとの関わりについて調べた。

研究内容や成果等

本実験では、正常ヒト線維芽細胞TIG-1にコラーゲンを熱処理・酵素分解したコラーゲントリペプチド(CTP)を添加し、コラーゲンの発現量変化等の解析を行った。CTPで刺激した結果、細胞内のコラーゲン産生が増加した。CTPによるコラーゲン遺伝子の発現は、MAPキナーゼの阻害剤SB203580の添加で抑制された。細胞は老化と共に細胞分裂のスピードが落ちていく。CTPを添加した培地で培養した細胞は、培養日数が経過してもPDL(集団倍加数)の増加が鈍化しなかった。さらに、CTPは細胞老化の指標となる細胞分裂の進行を抑える遺伝子であるp16INKの発現を減少させた。以上の結果から、CTPがヒト細胞レベルの老化進行を抑制することが示唆される。


■CTP投与の結果、コラーゲンタンパク質の発現が増加した

■CTPやコラーゲンは細胞老化の進行を遅くする

■コラーゲン遺伝子の発現は、MAPキナーゼ阻害剤によって
抑えられる

■CTPは細胞老化関連遺伝子の発現を減少させる
指導教員からのコメント 准教授 井上 英樹

松田さんは、「コラーゲン構成成分がもたらす正常細胞への作用」をテーマに卒業研究を行いました。コラーゲンは体の構造に重要なタンパク質ですが、老化とともに減少します。コラーゲンを構成する分子が生理活性を持ち、軟骨再生などの生理活性を持つと考えられていますが、詳細な作用機構は知られていませんでした。そこで本研究では哺乳動物培養細胞にコラーゲン構成成分を投与し、コラーゲンの発現とそのメカニズムについて解析を行いました。その結果、コラーゲン構成成分の刺激によりコラーゲンの発現が増加することがわかりました。さらに、コラーゲン発現の増加はMAPキナーゼ経路という、細胞内の情報伝達系を活性化によって引き起こされることがわかりました。今後は、コラーゲンの維持が細胞の老化進行を抑えるか等について調べ、最終的には肌などの若さを維持できる方法や傷の治療に結び付けられるような技術の開発を目指します。

卒業研究学生からの一言 松田 絵里

実験レポートの提出期限を守り、いかに質の良いレポートに仕上げるかを考える力が身につきました。卒業研究では、実験が上手くいかなかった場合、どの操作に問題があったのか、どう工夫すれば実験が成立するかなど、自分で考え担当教員に相談し、実行するという、社会に出てから必要となる基礎が学べました。卒研発表が近くなると夜中まで研究室にいることが多く、苦しい時間でしたが、同様に奮闘する仲間がいたので頑張れました。