卒業研究のご紹介
2020年版

電気電子系所属学生

共同Nb2O5を用いた導波路形マイクロリング共振器の製作

中田 竜輔(代表者)東京都
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程1年
(工学部電気電子情報工学科
2020年3月卒業)
東京都立総合工科高等学校出身
鈴木 智也神奈川県
工学部電気電子情報工学科 2020年3月卒業
神奈川県立新羽高等学校出身

研究の目的

これから5Gなどの普及により通信トラフィックの増加が見込まれます。そのため大容量な通信環境の実現が目指されています。波長フィルタや光スイッチはキーデバイスの一つであり、これらの素子の集積化や低消費電力化が求められています。本研究室では、光導波路と大きな屈折率変化を持つ液晶を組み合わせた研究を行ってきました。私の研究では、数十umで極微細で素子の小型化が可能である構造のマイクロリング共振器を用いて研究を行いました。マイクロリング共振器は鋭い波長特性を持っており、光を多くの光に分けることができます。光導波路の材料として、五酸化ニオブ(Nb2O5)を用いました。Nb2O5は大学のクリーンルームで製膜することができ液晶の効果を増大させることができます。マイクロリング共振器を集積し、液晶を用いることでよりたくさんの光を分けることができ大容量な通信環境の実現に貢献することができます。

研究内容や成果等

■ 素子構造

今回、提案する可変波長フィルタは、導波路形マイクロリング共振器(MRR)に上部クラッドとしてFLCを装荷した構造である。提案した素子の全体像を図1に示す。MRRの波長特性は、周期的な共振ピークを得られる特徴を持っている。
素子を製作するにあたり、解析を行った。解析を行った際の素子構造を図2に示す。素子構造として、BOX層にはSiO2を2000[nm]、コア層にはNb2O5を400[nm]、リブ高さを150[nm]、上部クラッドにSiO2を800[nm]、導波路幅を2[μm]とした。

図1  素子全体像

図2  素子断面図

■ 解析

まず初めにFSR(Free Spectral Range)と光路長の解析を行った。FSRとは波長特性における共振ピーク間隔のことを示す。図3に解析結果を示す。図3より、光路長が長くなるとFSRが狭くなっている。共振ピーク間隔が狭いと測定器で観測できないため、なるべくFSRを広くとれるように設計を行うようにした。
次にギャップ間隔と結合長の解析を行った。解析にはビーム伝搬法(BPM : Beam Propagation Method)を用いて解析を行い、結果を図4に示す。図4より、結合長が長くなるとギャップ間隔が広くとれる結果が得られた。ギャップ間隔が広いとリフトオフが容易になるという製作利点があるため結合長が長くとれるように設計を行った。
最後にリング共振器での損失を調べるために、曲率半径による損失の解析を行った。解析にはBPMを用いた。解析結果を図5に示す。解析は、曲率半径を5[μm]〜120[μm]の間を0.1[μm]の間隔で変化させて解析を行った。曲率半径が約20[μm]から出力を得る事ができ、約60[μm]、90 [μm]では約90[%]の出力を得る事ができている。曲率半径が90[μm]以上で95[%]以上の出力光が得られている。そのため、半径95[μm]の正円形のリング共振器と、半径95[μm]の円に直線を100[μm]入れたトラック形のリング共振器を製作することにした。製作を行うリング共振器を図6に示す。

図3  FSR−光路長解析

図4 ギャップ−結合長解析

図5 曲率半径損失解析

図6 製作するリング共振器

■ 製作・評価

製作プロセスとしては、熱酸化Si基板にコア材料Nb2O5を400[nm]を目標に382.5[nm]成膜し、微細なパターニングが必要なため、EB描画装置を用いてパターニングを行った。その後Cr蒸着を行い、ドライエッチングを行って導波路形成を行った。
上部クラッドがAirの状態で製作した素子の波長特性を端面結合法にて測定をした。測定結果を図7に示す。どちらの導波路でも出力光を得る事ができた。

図7 出射光の近視野像

■ まとめと今後の課題

Nb2O5を用いたFLC装荷導波路形MRRの提案・設計を行った。MRRを、EB描画装置を用いて描画し、導波路を形成することができた。また、測定において、試作素子から出力光を確認することができた。
今後の課題として、損失の曲率半径依存性の測定・評価を行い、設計値の再検討を行う必要がある。また、曲率半径縮小のために光の閉じ込めの強い、チャネル導波路・ディープリッジ導波路での構造パラメータの検討が今後の課題である。
指導教員からのコメント 光機能デバイス研究室教授 中津原 克己
中田君と鈴木君には、当研究室として新たな試みであるマイクロリング共振器という構造に挑戦してもらいました。マイクロリング共振器では、環状にした導波路を光が周回することにより得られる共振現象を利用して、波長がわずかに異なる光信号を高密度に多重化したり、多重化した信号から所望の信号を選択したりすることが出来ます。マイクロリング共振器の実現には、大学のクリーンルームにある様々な装置を駆使した高い微細加工技術が必要で、一つ一つ条件を試して技術力の向上を進めてもらいました。中田君は大学院に進学したので、さらに微細加工技術を向上させて、マイクロリング共振器を用いた波長フィルタや光スイッチを実現し、世界に向けて研究成果を発表できることを期待しています。
修士研究学生からの一言 中田 竜輔
私は大学入学時、行きたい研究室などは特に決まってはいませんでしたが、中津原先生の授業で光エレクトロニクスに興味を持ちました。3年次に「3年特別ユニット」という授業を履修し、研究室体験のような感じで1年間、先輩に研究室のことや、装置の使い方などを教えていただきました。4年次では、本格的に研究が始まり毎週の研究報告や、学会を聞きに行ったりすることで、大学院進学を考えるきっかけになったり、人の話を聞いて理解する力を身につけることができました。