卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

空気圧を用いた戸建て住居の浮上による断震技術

広田 尚希神奈川県
創造工学部ロボット・メカトロニクス学科2021年3月卒業
神奈川県立海老名高等学校出身

研究の目的

本研究で検討するAIR免震システムでは、地震のP波をセンサーにより検出し、S波が来る前に空気圧により住居を浮上させて地震の振動を遮断します。このシステムは、住宅への被害を低減するだけでなく、揺れが最小限に抑えられ、物が落ちてきたりといった危険も回避でき、画期的技術といえます。しかし、これまでの空気圧免震では動特性が明らかでなかったため、その空気圧免震の動特性の検証と、ある条件での浮上時間の検証を行いました。断震システムにおいて、浮上にかかる時間は非常に重要です。P波は間隔が短い場合もあり、可能な限り短い時間で浮上させることが望ましいです。
そこで本研究では、空気圧による住宅の浮上時間について理論的考察を行いその結果をまとめました。

研究内容や成果等

■ 浮上住宅の構造

本報告の断震システムは、Fig.1のように体積1200L、圧力900kPaの圧縮空気を利用し、重量100トン、底面積80m2の戸建て住宅を浮上させるものである。この住宅にタンクから内径20㎜の電磁バルブと内径1インチ、長さ10mの管路通り、1秒以内に20㎜浮上させることを目指している。
Fig.2の図は浮上動作をしたときの仕組みである。浮上させる仕組みは、P波の揺れを感知するとセンサーが感知し、タンクから空気を送り込み、住宅を浮上させ、揺れを建物に伝えづらくする装置である。これを、5回浮上可能な分の圧縮空気を充填している。

Fig.1 住宅構造

Fig.2 浮上構造

■ 理論式の導出

まずは、タンクに必要な圧力をボイルの法則を用いて、求めてみる。式(1)より力のつり合いにより持ち上げるのに必要な空気圧を求める。式(1)。
(Pa大気圧[kPa]、Ps:持ち上げるのに必要な空気圧[kPa]、A:建物基礎底面積[m2]、m:建物の質量[kg])

ボイルの法則を使い、タンクへの充填圧力を求める。式(2)。
(V1:建物を持ち上げるための空気層の体積[L]、V2:タンクの体積[L]、Pt:タンクへの充填圧力[kPa]、n:持ち上げる回数[回])

次に、この装置に必要な流量を求めてみる。次式より質量流量Gを求める。式(3)。
(h:浮上した高さ[m]、ρ:空気の密度[kg/㎥]、Δt:浮上時間[s]、G:質量流量[kg/s]) 

式(4)よりGを単位変換させ体積流量を求める。式(4)。
(Kg:Qanrの単位変換、Qanr:体積流量[L/min(ANR)])

次に式(5)を使い流速を求めてみる。体積流量を以下のように単位変換する。式(5)。

次に、参考文献(省略)より、管路の有効断面積を求める。式(6)(7)。
 (Se0:管路 1m 当たりの有効断面積、L:管路の長さ、 Se2:10m の管路の有効断面積)
(Se1:バルブの有効断面積[㎡]、Se3:管路の合成有効断面積[㎡]) 


式(6)と式(8)で求めた体積流量と有効断面積より流速を求める。 (u:流速[m/s])式(8)。 

最後に 25 ㎜の管路で住宅を浮上させるには何秒かかるか検証してみる。式(9)。
(kQanr:管路の体積流量[NL/min]、P1:タンクの圧力のゲージ圧[Mpa]) 

■ 理論式の導出

まずは式(1)より人工地盤の圧力を求める。 式(10)。

前式より浮上に必要な空気圧は112[kPa]となる。式(2)よりタンクへの充填圧力を求める。 式(11)。

この結果より、現存の容器内圧900kPaは適切な値であるといえる。式(12)。 

次に式(3)より質量流量を求める。
式(4)より体積流量を求める。式(13)。

式(5)より体積流量を単位変換する。式(14)。
参考文献(省略)には、管路の単位当たりの有効断面積で、管径9㎜以下しか記載させれていなかった。そこで、対数近似値曲線で25㎜までの有効断面積を予測した。 

式(6)より内径25㎜、10mの管路の有効断面積を求める。式(15)。

式(7)よりバルブと管路の合成有効断面積を求める。式(16)。

前式のSe3を単位変換し、式(8)より流速を求める。式(17)。
最後に内径25㎜の管路で浮上させるのに何秒かかるか検証した。

式(9)より管路の流量を求める。式(18)。 

1秒当たりの流量は182[NL/s]なので浮上時間は次式(19)のようになる。
この結果より25㎜管路で住宅を1回浮上させるのには8.8秒かかることが分かった。 


Fig.3 有効断面積の対数グラフ

Table1 1mあたりの管路

■ まとめ

検証の結果、流速が音速を超えたため仮定したシステムでは1秒で住宅を20mm浮上させることは、困難であることが分かった。また、住宅を浮上させるために必要な200Lタンクだが、1つで高さ1.6m内径 0.4mの大きさがあり、一般住宅では幅をとってしまう。そこで、より小さな容積で必要な空気量を確保できないか考えたが、高圧タンクから空気を放出すると断熱膨張により温度が低下し、空気が凍ってしまう。今後は、温度変化を抑制するとともに大流量を確保するため、等温加圧力容器を用いたシステムを検証する予定である。
指導教員からのコメント フルードパワー・災害救助ロボット研究室教授 吉満 俊拓
東日本大震災において、本研究のモデルハウスが試験運用されその安全性が確認されているが、設置スペース・応答速度に課題があり大都市圏への展開に課題が残されている。本研究は、上記課題を理論的な立場から解決することを目的としている。広田君は、コロナ禍で学内での研究に制限を受ける中、限られた学内での研究時間やWEB会議を有効活用しつつ、上記のような成果を上げることができた。新天地でも活躍されることを期待している。
卒業研究学生からの一言 広田 尚希
今年は、新型コロナウイルスの影響で研究が進まないところが多い中、吉満先生のおかげで、東京工業大学の名誉教授の先生の下でお世話になり、研究所をお借りし問題なく研究を行えました。その先生の下で空気圧についてご教授いただき、新しい知識や考え方を修得し、実りある研究ができました。また、わからない問題に直面しても対応や解決策を一緒に考えていただき、吉満先生や東京工業大学の研究所の方々の下で研究ができて良かったです。同時にこの研究を通して、学会にも参加し、いろいろなつながりや学びが多く、知識的にも、精神的にも成長できました。