卒業研究のご紹介
2019年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

マンガン置換によるソーダライト型物質の発色

岡村 勇斗神奈川県
工学部応用化学科 2019年3月卒業
神奈川県立横須賀高等学校出身

研究の目的

マンガンは遷移金属元素の一種で、電池、磁石、合金などさまざまな用途があり、極めて有用性の高い元素の1つです。遷移金属元素は多様な酸化数を取ることができることが特徴として挙げられます。高校の化学の教科書ではMn2+の水溶液が薄い赤色、酸化マンガン(IV)MnO2は過酸化水素水から酸素を発生させるときの触媒、過マンガン酸イオンMnO4-が酸化還元滴定で用いられることが紹介されています。これらの酸化状態を含め、マンガンはイオンの状態では+2から+7までの多様な酸化状態をとることができます。これだけ多くの種類の酸化状態をとることができる元素は、実はあまり多くありません。ところで、マンガンのこの多様な酸化状態はいずれも均等に実現するわけではありません。特に+5の酸化状態は非常に珍しいとされています。本研究で、ある化学組成のソーダライト型物質を合成したところ、水色に発色する物質が得られました。詳細な分析により、その物質が+5の酸化状態のマンガンを保持することを見出しました。

研究内容や成果等

■ 実験方法

金属酸化物の粉末などを原料に用い、混合後、加熱して反応させるという方法で試料の合成を行いました。粉末X線回折法により得られた試料の結晶構造を確認しました。

■ 実験方法

合成した試料は右図に示すようにソーダライト型の構造を持つことが確認されました。合成した試料の写真を下に示します。左端の試料はMnを含まない試料で、それ以外はMnを含む試料です。Mnを含む試料はいずれも水色に着色しています。Mnは多様な酸化状態をとることができると上で記しましたが、酸化状態によってそれぞれ特徴的な色を示します。写真のような水色を示すのは+5の酸化状態であることが知られています。ソーダライト型物質が+5の酸化状態のマンガンを取り込むことが発見されたのは、おそらく世界で初めてのことと思われます。研究成果は近く公表される予定です。+5の酸化状態のマンガンを含む固体物質は水色の顔料としての用途が考えられ、また近赤外線の発光を示すので生体イメージング用の新素材として応用が見込まれます。

ソーダライト型物質の構造

+5の酸化数のマンガンを保持し、水色に着色したソーダライト型物質
指導教員からのコメント 教授 竹本 稔
この研究はそもそも、可視光で発光する新しい蛍光材料を開発することを目的として始めました。合成した試料は図に示すように水色に発色し、これはまったく予想外のことでした。何度合成しても水色に発色します。そこで研究テーマを蛍光から発色に切り替えて、さまざまな分析と解析、そして文献調査を行いました。その結果、この水色の発色は非常に珍しい+5の酸化数が実現しているためであることが分かったのです。
成果公表前で詳しいことは説明できませんが、まだ未解明な点がいくつかあり、今後はそれらを解明していく研究を行う予定です。
卒業研究学生からの一言 岡村 勇斗
大学1~3年生を通して化学についての基礎的な知識から自分の専門科目である無機化学について学び、大学4年生ではその学びの集大成として卒業研究に取り組みました。
卒業研究では今まで大学で学んだ知識を使うのは勿論ですが、それ加えてに常に新しいことを学びながら研究を進めて行くのでそこに難しさを感じました。しかし、担当の先生に知識面や研究の進め方など様々な面で支えていただいたので、着実に研究を進めることができました。