卒業研究のご紹介
2020年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

使用済みPETを原料に用いたレジスト用樹脂(電子基板用保護膜)の開発

田中 聡真東京都
工学部応用化学科2020年3月卒業
東京都立府中高等学校出身

研究の目的

使用済みPETを有用な資源と捉えて、これから付加価値の高い化学物質へ誘導することを目指した。式に示したように、まずトリメチロールプロパン(TMP)に代表される多価アルコールをPETと反応させてエステル交換させ、分子量の小さな多価アルコールの混合物(I〜III)を得た。続いて、これにアクリル酸を反応させてアクリレート化し、光を当てると固まる性質(光硬化性)を持ったアクリル酸エステル(IV〜VI)へ誘導した。

これを硬化剤とし、他のいくつかの薬品と混合して“ソルダーレジスト”と呼ばれる光硬化性樹脂を作成した。電子基板の上に塗布して、その光硬化性能や硬化した塗膜の物性を評価したところ、市販されている樹脂と比べて光感度でいくらか劣るものの、その他の性質に差異はなく、実用的特性と物性を有していることが確認できた。このように、使用済みPETから高い付加価値を持った物質にリサイクルできることを実証した。

研究内容や成果等

■ 実験

所定量の PET、TMP、オクチル酸亜鉛(触媒)の混合物を240℃で5時間かき混ぜて解重合を行った。その後、残留している未反応のTMPをヒートガンで強熱して除去した。これに所定量のアクリル酸(AA)、p-トルエンスルホン酸(酸触媒)、p-メトキシフェノール(重合禁止剤)を加えて120℃で24時間反応させ、一連の単離、精製操作を経てアクリレート樹脂を得た。オクチル酸亜鉛に替えて酢酸ナトリウムを用い、同様の操作を行い解重合させた後、食塩水でよく洗浄して触媒を除去した。残渣を同様にしてアクリレート化した。

■ 結果・考察

アクリレート樹脂とその硬化物の実装試験は共同研究先企業に依頼して行った。各評価の比較物質に は、広く実用に供されているトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)を用いた。SR組成(重量比)を、ノボラック型フェノール樹脂100、ビスフェノールAエポキシ樹脂32、アクリレート樹脂(または TMPTA)10、光ラジカル開始剤16、硫酸バリウム 100(増量剤)に配合した。これを基板にスクリーン印刷して塗布し、ネガフィルムを通してメタルハライドランプ(7kw)で露光後、アルカリ現像した。樹脂に関して現像性と光感度等を、硬化塗膜に関しては基板密着性、鉛筆硬度、ハンダ耐熱性、耐薬品性、機械特性等を評価した。結論として、未反応のTMPを除去したアクリレート樹脂を配合したSRは、リファレンスのTMPTAを配合したものと比べて現像性、光感度では劣るものの、その他の評価項目ではどれもリファレンスの優れた実用的性質を有していた。このことは、未反応のTMPを除去していなかったこれまでの結論と一致する。
指導教員からのコメント 高分子化学研究室教授 三枝 康男
使用済みPETを資源の一つとして捉えて、再利用する試みが盛んに検討されています。私達の研究室でも後述するソルダーレジストで高いシェアを誇る企業と共同して、PETを解重合して低分子化合物に誘導し、これをさらに光硬化性物質に誘導して、電子基板の回路保護膜であるソルダーレジストに応用することについて検討を進めてきました。専門的になりますが、田中聡真君には、この解重合で使用する多価アルコールの未反応分と触媒が一連の反応の過程を通じて残留することの問題点について対処してもらいました。簡潔に言えば、未反応分は加熱して除去し、触媒は洗浄して取り除いてもらいました。こうして得られた光硬化性樹脂とその硬化物の評価はこれまでと同等でしたが、これまで問題点とされてきたことの一つを明確にさせたことの意味は大きく、次へ進めるためのヒントが得られました。
卒業研究学生からの一言 田中 聡真
卒業研究を進めていく中でいろいろな試薬や器具を使い、違ったタイプの反応装置を組み立て、多くの分析機器にも接した。これらを通して多くの実践的実験技術を学び、知識を得ることができた。研究を進める上で先人の知識がいかに大切であるかも知った。指導教員に尋ね、図書館を利用し、またインターネットを通して電子ジャーナルや電子特許にもアクセスして、様々な情報を得ることができた。この1年間の研究室での生活の中で、短・中期的な実験計画を自身で立てて、実行することが重要であった。週や月ごとに実験計画を立て、これが実行されたかを自身で評価することを繰り返した。来たる社会人として必須な計画性、実行力、自己管理能力を深く身に付けることができたと感じている。