卒業研究のご紹介
2020年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

バイオセンサーへの応用を目指したシャペロニンのガラス表面固定

佐藤 岳仁東京都
応用バイオ科学部応用バイオ科学科/医生命科学特別専攻 2020年3月卒業
東京都市大学等々力高等学校出身

研究の目的

臨床、食品、環境分野において、生体分子を識別するバイオセンサーの開発が進んでいる。
生体分子の識別素子として酵素を利用する場合、基板への固定化はタンパク質の構造変化につながり、活性を失うことが多い。そこでセンサー酵素の安全な基板固定のため、タンパク質の折れたたみを介助する大腸菌のシャペロニンGroELの利用を考えた(図1)。
GroELは、協働タンパク質GroESと結合すると、約5 nmの内腔をもつGroEL/GroES複合体を形成する。ATP加水分解にかかる約8秒でGroESを解離するが、ATP加水分解を遅くした変異体では長時間タンパク質を内包することができる。本研究では、センサー酵素を長期間内包、かつ平面固定させるカプセルとしてのGroELを、センサーチップの材料であるガラスの表面へ固定化することを目指した。

研究内容や成果等

複合体寿命が12日に延長されたGroELD52,398A変異体を組換え大腸菌内で発現させ、98%以上の精製度まで精製した。1cm2に切断した角カバーガラスに、GroELを滴下、デシケーターで乾燥したものを、走査型プローブ顕微鏡(SPM)で観察した。GroELD52,398Aは、ガラスに吸着でき、1µMで5分間、あるいは0.1µMで5分間の静置を反復することにより一層で面を敷き詰めることがわかった(図2)。そこで、平板固定GroELに基質タンパク質を内包し、酵素活性を検証している。GroELは変性タンパク質の再生能をもっているため、内包酵素の活性を長期間維持できるバイオセンサーの基盤技術の構築が期待できる。

図1  シャペロニンの構造とバイオセンサーへの応用

図2  GroELD52,398Aをガラス表面へ敷き詰めたSPM観察像
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
当研究室では、独自に開発した開閉時間制御型シャペロニンを平板固定化し、その中に別の酵素を包摂することで多様性のある固定化酵素利用を実現することを目指しています。シャペロニンのタンパク質再生能力により、自己修復可能な保存性の高い持続的バイオセンサーの基盤技術が構築できると考え、佐藤君はこの新しいテーマに取り組みました。困難な場面を乗り越える毎に思考力が鍛えられ、研究成果だけでなく、自身の成長も大きな成果でした。
卒業研究学生からの一言 佐藤 岳仁
本学では卒業研究以外にも、サイエンスインカレ(文部科学省主催)やiGEM(合成生物学の世界大会)など、課外活動として研究できる場が多く用意されています。私はそれらの活動を通し修正する力を伸ばすことができました。研究活動は、実験以外にも実験の報告や渉外活動、授業と並行しながら行う必要があり、失敗の連続でした。その様な環境で、試行錯誤したことはとても良い経験になったと思います。特に卒業研究では、決められた期日の中で、実験をするための論文を探す、論文の内容をきちんと理解する、実験計画や結果について相談・報告するといったことを通して、自分の思考や実験操作のクセを把握し、修正できるようになったと思います。