卒業研究のご紹介
2020年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

シャペロニンによる2-アントラセンカルボン酸の エナンチオ区別光環化二量化反応の制御

小林 耕太神奈川県
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻Bコース 博士前期課程 2020年3月修了
(工学部応用化学科/医生命科学特別専攻 2018年3月卒業)
神奈川県立麻溝台高等学校出身

研究の目的

光をエネルギーとした光学活性化合物の合成の反応場として、生体高分子を応用する研究をしています。医薬品や液晶化合物など幅広い分野で重要な光学活性化合物は、主に熱をエネルギー源として合成されています。光をエネルギー源とした環境に優しいクリーンな合成系が期待されていますが、反応効率の低さが課題であり、生体高分子の構造ポケットに原料となる化合物を選択的に取り込ませ、局所濃度を向上させることで反応効率の改善を目指しています。シャペロニンという直径 5nmの空洞をもつカプセル構造のタンパク質を利用し、反応化合物と結合・遊離を繰り返すことのできる新しい『可動式反応場』の構築を試みています。ドライな実験系(分子シミュレーション)とウェットな実験系(光化学、生化学)によるハイブリットなアプローチによって、個々の化合物に適したオーダーメイドの反応場としてシャペロニンを応用展開することを目的としています。

研究内容や成果等

シャペロニン(GroEL)は、ATPの加水分解を伴って自身の構造を変化させながら、変性タンパク質を内部に取り込み構造形成した後に、放出する反応を繰り返す。当研究室で所有している100種類以上のGroEL変異体に対し、ドッキングシミュレーションで2-アントラセンカルボン酸(AC)結合サイトの傾向を分析し(図1)、ACとの高い相互作用が期待されるGroEL変異体を選定して光環化二量化反応の反応場に用いた。GroELとACの相互作用については、等温滴定型カロリメトリー(ITC)により解析した。GroELを用いたACの不斉光二量化を行ったところ(図2)、野生型GroELではキラルホストとして機能しなかったが、GroES結合サイト付近の変異体 GroELMELを用いた場合に不斉光反応場として機能することを見出した。今後は、不斉光反応場としての構造選択性を高くする変異のデザインを行い、実験データを重ねていく。

図1ドッキングシミュレーションによるGroELへのAC結合部位予測

図2  2-アントラセンカルボン酸の二量化反応
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
タンパク質を化学合成の反応場として活用するという新しいテーマを、東北大学との共同研究で進めました。精製したタンパク質を用意して外部の大学へ行き、2〜3週間で実験データをとり、帰ってきてディスカッション、ということを繰り返しながらすすめていたので体力も必要でした。医生命科学特別専攻では応用化学科と応用バイオ科学科の学生が共に学びますが、生体分子に興味を持った応用化学科出身の小林君が生物工学会で若手賞を受賞し、医生命科学特別専攻ならではのまさに化学とバイオの融合した研究となりました。
修士研究学生からの一言 小林 耕太
私は医生命科学特別専攻に所属し、専攻のカリキュラムでアメリカのシアトルに短期留学をしました。滞在期間中はコミュニティカレッジで、少人数のグループワークや英語でのプレゼンテーション、実験実習を行いました。この経験を通じてコミュニティが広がり、英語を活用する機会が増えました。帰国してからは生体内の1分子が精密な機械の歯車のように機能していることに感動し、生体分子を扱っている研究室を希望しました。研究室では測定機器等の専門的知識を要求され、論理的思考を鍛錬することのできる環境で活動しました。また、学会発表を通じて新しい発見ができるとともに、周囲とのコミュニケーションによって大きな成果が得られました。