卒業研究のご紹介
2022年版

情報系所属学生

カフェの音環境のアノニマス性に関する検討

大庭 駿平山口県
情報学部情報メディア学科
2022年3月卒業
山口県立光高等学校出身

研究の目的

音環境を評価する代表的な指標は、その環境のdBの大きさで評価する場合が多く、一般的にはdBの小さい静かな環境が良いとされている。しかし、近年多様性に配慮した音環境設計のあり方が問われており、例えば何かに集中して作業する際、静かすぎて人の存在や自分の出す音が気になるといった、音の大きさとは違う指標も必要ではないかと考えられている。そこで場に合った音環境の新たな指標としてアノニマス性に着目した。2021年小橋らによる図書館の音環境に関するアノニマス性の構成要因について研究を行った結果、音環境とアノニマス性の関連を確認することができた。一方でこのようなアノニマス性は場所によって異なるのではないかと予想した。そこで本研究では、様々な空間を対象とした音環境のアノニマス性を明らかにすることとする。そして今回はカフェを対象としたサウンドスケープ調査及び、アノニマス性の構成要因の詳細を質問票調査、キーボードを用いた文字入力タスク実験により探る。

研究内容や成果等

■ 実験手法

本研究ではカフェの音環境のアノニマス性の構成要因を明らかにするために以下の調査・実験を行った。

(1) 予備調査:カフェのサウンドスケープ調査

本調査では、カフェの音環境の実態ならびに質問票調査で必要な項目の作成を目的として行った。調査方法は騒音計アプリを用いて、カフェでどのような音が発生するのかを調べた。

(2) カフェの質問票調査

本調査では、カフェのアノニマス性の構成要因を探るために、サウンドスケープ調査の結果に基づき質問票を作成し、アンケート調査を実施した。質問項目は、個人属性、自分や他人の動作に関する質問など合計170問になり、1人または複数人でカフェに行く場合の2つの条件下で回答してもらった。方法はGoogleフォームを用い、集まった有効回答数256件をもとに因子分析を行った。

(3)キーボードを用いた文字入力タスク実験

本実験では、因子分析で得られた因子を組み合わせて自己発生音・他者発生音にフォーカスをあて、カフェの環境が賑やかな時、他者が存在する/しない時などの条件は、カフェでの作業に影響があるのか主観評価、打鍵速度の観点から調査を行った。実験方法は、指定する条件下でキーボードを用いた文章入力タスクを2分間アプリケーションが終了するまで行ってもらい、その後、5段階の主観評価を行ってもらう。条件は全部で 18条件とする。18条件中12条件で音源呈示(45dB or 65dB)を行う条件があり、その音源の内容として、騒がしい環境音から比較的静かな環境音、そして無音を含む4種類のイベント音がそれぞれ15秒間ずつ呈示されるように編集したものとなっている。

■ 分析・実験結果

質問票調査で集まった回答をもとに因子分析を行った結果を以下の表1~2に示す。表1~2より、1人または複数人で行く場合の双方で7因子ずつ抽出することができ、その内「機械音/環境音因子」、「自分の発生音への注意意識因子」、「カフェ店員の存在感に関する因子」、「不快音へのマインドセット因子」、「他者の気配/存在感因子」、「発生音への鈍感化に関する因子」の6因子は共通していることが分かった。そして残り1因子は1人で行く場合だと「不快感のある音に関する因子」、複数人で行く場合だと「カフェに対するマインドセット因子」と異なる因子が抽出された。

表1 1人でカフェに行く場合の因子負荷量および抽出因子

表2 複数人でカフェに行く場合の因子負荷量および抽出因子
入力タスク実験では、まず打鍵速度に関しては音源呈示なしならびに呈示音圧が65dBの場合、他人がいない時と正面にいる時は打鍵速度が遅くなる傾向となり、他人が隣に 2人いる条件下では、打鍵速度が速くなる傾向となった(表3~4)。しかし、音源呈示が 45dBの場合、他人が正面にいる時の打鍵速度が速くなる傾向となり、他人が遠めに2人いる時は打鍵速度が遅くなる傾向といった違いがみられた(表5)。また、主観評価項目に関して分散分析をした結果、他人が正面にいる場合、他の位置(近めor遠めの隣)にいる場合よりも有意に気にされるということが分かった。

表3 音源呈示なしにおける各実験参加者の平均打鍵速度(key/s)

表4 呈示音圧が65dBにおける各実験参加者の平均打鍵速度(key/s)

表5 呈示音圧が45dBにおける各実験参加者の平均打鍵速度(key/s)

■ 考察

今回カフェにおけるアノニマス性の構成要因を明らかにするため、質問票調査や入力タスク実験などを行った結果、アノニマス性の構成要因は同じ音環境でも他人と一緒にいる・いないで多少変化すると考えられた。また、呈示音圧の大きさの違いによってキーボードの入力動作に影響しているのではないか、他人が正面にいる場合の影響力は他の状況下よりも大きいのではないか、と考えられた。

■ 今後の課題

今後はキーボード入力時の音圧レベルの違いなど、客観量についても分析し、アノニマス性の感じ方と行動の関係について明らかにしていく予定である。また、今回ヘッドホンから呈示された音源2分間の打鍵速度を求めたが、音源中のイベント音に分けて打鍵速度、打鍵音の音圧レベルを調べると、キーボードの入力動作への影響、気にする度合いに違いがでるのではないかと考えられるため、追加で分析を行っていく予定である。
指導教員からのコメント 応用音響工学研究室准教授 上田 麻理
大庭君は、とても誠実で能力の高い学生です。研究グループゼミでの宿題はいつも丁寧で着実に確実に実行していました。アノニマス性という少し難しいテーマでしたが、とてもとても頑張っていました。大学院進学ではなかったので、大庭君の功績を讃えて論文化及び、書籍化の中での貴重なデータとして活かしていこうと考えています。大胆さやチャレンジ精神が少し少ないのが残念な気持ちでしたが、本当に信頼のおける学生でした。社会人としての今後の活躍を期待しています。いつでも遊びにきてください!
卒業研究学生からの一言 大庭 駿平

研究活動を振り返り成長したこと

「音環境のアノニマス性」をテーマに研究活動を行い、内容的には少し難しく、実験や分析をしていくうえで壁にぶつかることも多かったですが、担当教員のご指導もあり、そこを乗り越えたときの達成感がとても大きく、やりきって良かったと感じました。今回の研究活動で学んだことは、今後の人生で活かしていきたいと思います。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

まずは「自分は何に興味があるのか」を知っておくことが大切ではないかと思います。それを見つけることで研究に対する意欲が変わってくると思うので、少しでも自分の興味のあることを探してみてください。