卒業研究のご紹介
2019年版

化学・バイオ・栄養系

ポリマー構造中に特異な環構造を導入した新しいポリイミドの合成

鈴木 克弥神奈川県
工学部応用化学科 2019年3月卒業
神奈川県立伊勢原高等学校出身

研究の目的

数ある高分子の中でも、ポリイミドは、耐熱性、絶縁性、強度などで最高水準の性能を有することから、先端分野を中心に利用されている。電子機器で使われる黄色いフィルム状の回路基板や宇宙船を覆う金色をした保護膜がそれである。しかし、この高分子は不融不溶であることから、加工することが大変難しい。アンモニア分子の水素を芳香環で置き換えたトリアリールアミン類は、嵩高く、共役面が広いなど、特異な環構造を持つことから、電気を通したり、蛍光を発光したりするなど、多くの興味ある機能を発現する。これらの要素を組み合わせて、本研究では、トリアリールアミン構造をポリイミドの主鎖に導入して、その加工性を改良するとともに、ポリイミドに様々な機能を発現させることを目指した。

研究内容や成果等

本研究では、図に示す新規な原料モノマーを合成して、これから一連のポリイミドへ誘導した。生成したポリマーは500℃まで変化しないなど高度の耐熱性を保持したまま、様々な溶媒に溶解した。

図 新規なテトラカルボン酸二無水物の合成経路

■ ポリマー合成

ジアミンには4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンを、溶媒にはNMPを用い、ポリイミドの合成は常法である2段階法で行った。ジアミンと酸二無水物をNMP中で24時間かき混ぜてポリアミド酸を合成した後、この溶液をガラス板にキャストし、50、150、250℃の各温度で1時間加熱し、さらに300℃で2時間ポストキュアしてポリイミドフィルムを得た。使用したジアミンに依らず、得られたフィルムはどれも共役系が発達しているためか、濃い深赤色を有していた。重合結果の一例を示せば、3,4'-ジアミノジフェニルエーテルから得られたポリアミド酸の還元粘度は0.38dL/gであった。還元粘度の値が大きくないためか、フィルムはどれも強靭ではなかった。溶解性試験の結果、これらのポリマーはNMPやDMAcといった非プロトン性極性溶媒に加えジクロロメタンやクロロホルム等、汎用な塩素化炭化水素類にも可溶であった。熱分析の一例として、3,4'-ジアミノジフェニルエーテルから得られたポリイミドは窒素下での5%重量減少温度が547℃、800℃での重量残存率は73%と、多くのポリイミドに匹敵する高い耐熱性を有していた。
指導教員からのコメント 教授 三枝 康男
ポリイミドは、最も優れた性質を有する高分子です。しかし、ポリイミドにも欠点があります。加熱しても柔らかくならないこと、そしてこれを溶かす溶媒がないことです。この欠点を克服するために、鈴木克弥君には、プロペラシャフト型の特異な環構造を持ったトリアリールアミン分子を主鎖に導入したポリイミドを合成することを目指してもらいました。1年間努力した成果として、新規物質となる高分子原料を合成することができ、これから新しい構造のポリイミドを得ることに成功しました。期待したように、これは高い耐熱性を保持したまま、多くの溶媒に溶解しました。これをヒントに、類似構造をした一連の新しい原料の合成に着手しており、さらなる成果に期待が持てます。
卒業研究学生からの一言 鈴木 克弥
卒業研究を進めていく中で多くの有機合成・高分子合成反応に接し、また実際に体験したことで、これらの反応がどのようにして進行するのかを理論だけでなく、試薬や器具の取り扱い、反応装置の組み立て方や得られた物質の分析法、高分子の性質の評価方法など、多くの実践的知識を学ぶことができた。この1年間の研究室での生活では、何をどのように進めていくのかが重要だった。週ごと、そして月ごとの短・中期的な実験計画を自身で立てることになるので、目前に迫った社会人として重要となるに違いない、「効率的な時間の使い方」、「自己管理能力」や「行動力」などが自然と身についてきたことが自覚できている。