卒業研究のご紹介
2019年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

薬剤耐性遺伝子を組み込んだ塩生植物の開発

望月 勇希静岡県
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻Cコース 博士前期課程2年
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科 2018年3月卒業)
静岡県立科学技術高等学校出身

研究の目的

農耕地に塩害が及ぶと通常の作物を育てることができなくなります。その解決法の一つとして、植物の吸収・蓄積する特性を生かして環境の浄化を行うファイトレメディエーションと呼ばれる方法があります。これは低コストであり除染プロセスが簡単である利点があります。これに相当する植物として海水と同じ塩分濃度でも育成が可能なアイスプラントと呼ばれる植物に着目しました。しかし、このアイスプラントは除草剤などの薬剤耐性が低いためファイトレメディエーションへの活用は困難となります。そこで、アイスプラントに対して薬剤に耐性を持つ遺伝子を組み込むことにより、農耕地に除草剤が含まれていたとしてもファイトレメディエーションに活用できる新しいアイスプラントの作出を目指しています。

研究内容や成果等

■ 結果および検討

形質転換植物体、非形質転換植物体での PCR 産物を電気泳動で分析したところ、形質転換個体及びベクタープラスミドにおいて強い発光バンドが認められた。またバンドの分子量を分子量マーカーにより測定したところ、形質転換個体では発光バンドが見られ、その塩基対数は700~800bpであった。一方、非形質転換個体では発光バンドは認められなかった。今回使用したベクタープラスミドpRI-201anも同様に、700~800bpと解析された。これは、カナマイシン耐性遺伝子の795bpと近似した値であった。従って、形質転換の手法としてアグロバクテリウムを用いることによりアイスプラントの形質転換が可能であることが明らかとなった。
次に、形質転換を行ったことによるアイスプラントへの生育への影響を植物個体の生存率をもとに評価を行った。その結果、形質転換植物個体と非形質転換植物個体を比較したところ、形質転換を行っていないものよりも生存率が 54%低下した。しかし、アイスプラントの育成種において、形質転換を行ったことによるカルス化した個体に1.0ppmサイトカイニンと1.0ppmオーキシンを添加することにより、生存率を62%まで向上させることが確認できた(Fig.1)。また、同ホルモン添加量、同条件下で培養を行ったところ、不定芽体まで誘導できることが明らかとなった(Fig.2)。

Fig.1 Evaluation of survival rate when two kinds of hormones are added

Fig.2 Transformed callus and adventitious bud
指導教員からのコメント 教授 斎藤 貴
海に近い農地は一般に塩害が生じており、日本は海に囲まれる国でもあることから、大きな課題である。農地から塩を除去する1つの手法として、植物による浄化法がある。これはファイトレメディエーションと呼ばれる。しかし、通常の植物は塩に弱く利用することはできないが、その中でもアイスプラントは、高い耐塩性を持っている不思議な植物である。ところが農地での利用のゆえ、農薬には弱い。そこで、この研究はアイスプラントを抗生物質や農薬に強い植物に変えるため、遺伝子組み換えにより、耐農薬の性質を持つ植物に変えることを目指している。これが完成すれば、塩害地に植物を植えるだけで、塩が除去される環境浄化に利用できる。大学院生として熱心に研究を進めている姿は、良い成果につながるものと期待しています。
修士研究学生からの一言 望月 勇希
本学には「Stop the CO2」というプロジェクト科目があります。ここでは、学部1〜3年を通して地球環境のあれこれを学んでいきます。もっとも特徴なのは卒業研究を行う前に「環境」に関わるテーマを自分で選んで研究室で実験を行えることです。環境に関する研究の最先端に触れられることはもちろん、その研究室所属の先輩のアドバイスももらえるので、先んじて研究室の感覚をつかむことができました。また、他学科の人たちとポスターによる成果発表会を行うので、自分の専攻分野以外の知識・意見を聞くことができます。そのため、幅広い知識を楽しく身に着けることができたと思います。