卒業研究のご紹介
2019年版

化学・バイオ・栄養系

創傷治癒を高める生薬

木下 明花静岡県
応用バイオ科学部応用バイオ科学科 2019年3月卒業
磐田東高等学校出身

研究の目的

皮膚は最大の臓器であり乾燥や紫外線などの外部環境から身体を守る役割があります。その皮膚には全身に存在する約50%のヒアルロン酸が存在し、創傷修復の過程においてヒアルロン酸が関わっていることが知られています。そのヒアルロン酸は組織修復期に関与しており肉芽組織の形成に欠かせないものです。本研究室では既に正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて蒼朮抽出物(β-eudesmol)が、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS2)の発現とヒアルロン酸量を促進するという知見を得ています。そこで本研究では、β-eudesmolを用いて創傷修復評価を行いました。その結果、β-eudesmolに創傷修復の向上効果があることがわかり、より迅速な創傷修復が可能な成分になり得ると考えられます。

研究内容や成果等

■ 実験方法

●細胞培養
ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF,44歳,PDL=7.37)は10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地 (D-MEM)を用いて、37℃、CO2濃度5 %に条件を設定したCO2インキュベーターの中で培養した。
●スクラッチアッセイによる創傷修復評価
60 mm dishに6.0×104 cells/dishになるように細胞を播種した。細胞がコンフルエント(細胞密集状態)になっていることを確認した後、滅菌されたブルーチップを用いて、スクラッチアッセイを行った。培地を吸引除去しD-PBSで2回洗浄した。0, 0.63, 1.25, 2.50μg/mLの標品のβ-eudesmol含有培地を加え、24, 48, 72時間培養した。培養後、創傷領域の修復率を測定した。測定方法は、十字にスクラッチしたところの交点を基準にImage Jを用いて面積を測定し、修復率を以下の式より算出した。修復率(%)=100-(培養後の評価時の面積/スクラッチ直後の面積)×100

■ 結果及び考察

●各β-eudesmol濃度の創傷修復評価
Fig.1に実際の顕微鏡観察画像(control, 1.25μg/mL)の結果、Fig.2にスクラッチアッセイのβ-eudesmol濃度別修復率を示した。

Fig.1 スクラッチアッセイの結果

Fig.2 β -eudesmol 濃度別の修復率
p*<0.05, p**<0.01(control との比較)
Fig.2より、β-eudesmol濃度が1.25, 2.50 .g/mLで培養48, 72時間後の修復率に有意差が見られた。特にβ-eudesmol, 1.25 .g/mL、培養48時間後ではcontrolの約1.4倍の修復の向上が見られた。これらのことから、HA生産量が増加し、NHDFの修復が促進されたことが示唆された。今後の実験では、β-eudesmol添加時の創傷修復に関連する遺伝子発現の評価を行うことを考えている。
指導教員からのコメント 教授 飯田 泰広
本研究室では生薬の一種であるソウジュツに含まれる物質(β-eudesmol)が皮膚の培養細胞にヒアルロン酸を多く作らせることができることを見出している。ヒアルロン酸は、傷の修復において重要な働きを有していること、ヒアルロン酸が多く存在している場合、傷が残りにくい知見が報告されているため、本物質が創傷修復を早める効果の検証を行った。具体的には、スクラッチアッセイ(ディッシュで培養した線維芽細胞に対して、培養面を削り細胞のいない場所を作り、その場所に細胞が戻ってきて元に戻るまでを調べる)を行い、本物質を少量(約1ppm)培地に添加することで、添加していない場合よりも有意に早く傷が修復されることが示された。
卒業研究学生からの一言 木下 明花
私は本研究を通して「考えて行動することの大切さ」を学びました。本研究では、実験が失敗した時、何故失敗したのか考察し、次の実験に活かす、その繰り返しでした。最初の頃は、実験を作業的に行っていたため、失敗してもなぜ失敗したのか原因が考えられませんでした。しかし、先生や先輩にアドバイスをいただき、使用する試薬や操作方法の意味を考えながら行うことで、実験が失敗した時、考察を行うことができ、次に繋げられるようになりました。その結果、本研究において結果を出すことができました。このことを社会人になっても活かし、会社に貢献できるようになりたいです。