卒業研究のご紹介
2019年版

化学・バイオ・栄養系

温度感応型医薬用材料ゲルの合成と評価

越石 翔之山梨県
工学部応用化学科 2019年3月卒業
山梨県立吉田高等学校出身

研究の目的

近年、医薬品は手軽に入手でき、容易に使用できるが、疾病の症状の度合いは個人差が大きく、同一の摂取量でも過剰や不足が生じる場合がある。過剰摂取では、嘔吐感、頭痛、目眩、消化器官の炎症などが副作用として表れる。この作用は成分種によるものや長期間の服用、医薬品の過剰投与や過剰摂取で主に生じ、狙った作用とは異なる作用を引き起こすことになる。この作用の低減の一つの方法として、医薬品からの薬剤の徐放量を温度によりコントロールすることで、身体が発熱しているときに薬剤が徐放され、熱の低下とともに徐放量が抑制されるような症状に合った薬剤量を摂取する手法となる。
本研究は医薬用材料への応用を目指し、環境温度により薬剤の放出制御を行うための素材として、外部環境の温度変化でリング状架橋点が移動して分子構造に変化を生じ、膨潤収縮を生み出す医薬用高分子ゲル(体温応答性ポリロタキサンゲル)の合成を目的とした。

研究内容や成果等

■ 実験

ポリエチレングリコール(PEG)の末端基をカルボン酸に酸化後、α-シクロデキストリン(α-CD)を包接させ、1アダマンタンアミンでこの包接錯体の末端基をキャッピングすることで PRゲル(包接数 85)を合成した。さらに 温度応答機能を付加するため 38.5℃の下限臨界共溶温度(LCST)を持つN-3-エトキシプロピルメタクリルアミドを合成し、架橋剤とともに重合して温度応答性 PRゲルを合成した。その後、膨潤収縮挙動を確認した。さらに合成した温度応答性 PR ゲルを凍結乾燥し、粉砕した後、アセトアミノフェン水溶液(10mg/mL)中で膨潤させた。日本薬局方に基づき溶出試験(第二液)を行い、温度に対する PRゲルからの徐放量の経時変化を測定し、徐放速度を算出することで解熱剤の徐放能を評価した。

■ 結果及び考察

≪PR ゲルの温度に対する膨潤収縮挙動≫ N-3-エトキシプロピルメタクリルアミドと包接数85のPRからGel 1を合成した。Gel 1にはアセトアミノフェンを内包させた。PRゲルを1×5×5mm(縦、横、高さ)に切り出した。日本薬局方に基づいて溶出試験(第二液)を 25℃から45℃までの温度間で、温度に対する質量変化を測定した。このときの質量変化を Fig.1に示した。Gel 1の最大収縮率は89%、最大膨潤率は11%となった。このことから合成したPRゲルの膨潤収縮は可逆的であること、含有するアセトアミノフェンはゲルの膨潤収縮の挙動については影響を与えないことが明らかとなった。
≪PR ゲルの徐放実験≫Gel 1においてアセトアミノフェン徐放試験を行った。Gel 1の温度に対する徐放速度の結果をFig.2に示した。低温度域(25~35℃)と高温度域(40~45℃)の徐放速度の差は0.83mg・mL-1・s-1・g-gel-1となり、35と40℃の間で2.1倍の急激な上昇を示した。以上のことから、PR ゲルは温度に依存し体積変動を示し、薬剤の徐放において、温度に対して徐放量が変化する座薬材料の作製が可能であることがわかった。

Fig.1 PRゲルの温度に対する膨潤収縮挙動

Fig.2 PRゲルによるアセトアミノフェンの徐放実験
指導教員からのコメント 教授 斎藤 貴
人の体温に応じて、風邪などによる発熱時に薬 (解熱剤)を含む薬剤が収縮して、解熱剤を多く放出する。一方、体温が平熱に戻ると、その薬剤が膨潤して薬の放出が少なくなる医薬用材料の合成を行っています。小児用の発熱時の座薬としての応用を目指している研究です。この研究は、新しい医薬用材料としての分子設計とその合成を行い、温度変化による体積変動の様子や解熱剤 (アセトアミノフェン)の放出状態を調査し、評価するものです。合成的研究は、これまでに無い特殊な機能を持った新しい分子を創り出す楽しさがあります。医療への貢献は、人への貢献につながる大事な研究です。4年次の卒業研究で進めている研究で、すでに学会発表も行っています。
卒業研究学生からの一言 越石 翔之
4年次に私は斎藤研究室に所属しました。斎藤教授の魅力はものの捉え方、発想がとてもユニークなことです。特に教授自身が楽しく研究をなさっているため、一年生から大学院生までファンが多く、人気があり、応用化学科で一番大学院生が多い研究室です。教授が忙しい時でも親身にかつ真剣に意見をしてくださるので、よく卒業研究の相談をさせていただきました。また研究の方向性を話し合うため、定期的に研究発表があり、安心して研究に取り組めました。研究室で学んだ考え方、行動力は今後の助けに必ずなると確信しています。