Side Stories

サイドストーリーズ
Vol.6

2人で挑んで銅メダルを獲得
「ハードル高すぎ」と思っていたiGEM*で見える世界が広がった!

*iGEMとは世界合成生物大会(遺伝子組替えに関する世界最大規模の大会)。

コロナ禍に入った2020年春。応用バイオ科学科の2人の学生が、本学のiGEMチーム・KAIT JAPANの活動を開始しました。バイオについての多くの知識と英語力が求められるiGEMに、当初は「ハードル高すぎでしょ!」と思っていた田代恵理さんと鈴木智佳穂さん(現:大学院応用化学・バイオサイエンス専攻 博士前期課程1年)。そんな彼女たちが、たった2人でiGEMにチャレンジすることになったきっかけや、銅メダルを獲得するに至った道のりについて、お聞きしました。本気で取り組むと世界が変わる!未来が変わる!そんな気持ちにさせてくれる彼女たちのチャレンジです。

iGEMの活動に関わろうと思ったきっかけについて
教えてください。

田代 さん

大学2年の春、KAIT JAPANのPI(責任者)*をされている学科の飯田先生から「実験はお好きですか?」と誘われたのがきっかけです。iGEMのことは新入生オリエンテーションで知っていましたが、「頭の良い人たちがやるもの。私が入れるようなところではない」と思っていました。でも、声をかけていただけたことで、慕っていた先生に1年間のがんばりを認めていただけたと感じ、うれしくて活動に加わりました。その年は、先輩たちと4名で活動し、ボストンで開催された世界大会にも参加。メダルは得られなかったのですが、世界を見て、これだけがんばっている同世代の人たちがいるんだから、自分たちもがんばりたい!という刺激を受けました。

翌年の春、飯田先生と「今年は誰を誘おうか?」と話していたとき、名前が上がったのが鈴木さんでした。授業の実験で鈴木さんが丁寧に取り組む姿に感じるものがありました。

*PI:プリンシパル・インベスティゲーター。チームの最高責任者のこと。

鈴木 さん

iGEMの活動に加わったのは、大学3年の前期が始まった頃です。飯田先生の授業の終わりに、既にメンバーとして活動していた田代さんから「一緒にやってみませんか」と声をかけられました。それまでiGEMは知っていて興味もあったのですが、どんな活動をしているのか分からなかったので、参加する勇気が出なかったのです。また、大会では英語でプレゼンテーション(プレゼン)をすると聞いて、すごくハードルが高いイメージもありました。ただ、私はサークルなどに所属してなくて、大学で特に打ち込んでいることもなかったので、誘ってもらった時には、新たな世界に足を踏み入れたようでうれしかったです。田代さんと同じく、飯田先生の授業は面白いし、いい先生だなあと感じていたので、参加してみようと思いました。

iGEMとは

毎年秋にアメリカのマサチューセッツ工科大学で開催される、遺伝子組替えに関する世界最大規模の大会で、大会本部が設定した項目の達成度により金、銀、銅メダルが複数のチームに贈られます。本学のチーム・KAIT JAPAN*は、国内の名だたる大学と共に2012年より参加。銀メダルや銅メダルを獲得した実績があり、今年度も応用バイオ科学科の学生10数名が新たな研究課題に取り組んでいます。
*KAIT JAPANは「学生支援プロジェクト」の1つです。

2人でチャレンジして銅メダルを獲得した2020年のiGEMの大会について教えてください。

田代さん 鈴木さん

2020年のKAIT JAPANのメンバーは、なんと私たち2人だけ! 絶対にマンパワーが足りないと焦ったのですが、先生も先輩方もいるので「なんとかできるでしょ!」とスタートしました。

具体的な活動の流れは、11月に開催される世界大会(2020年はオンライン開催)に向けて、プロジェクトの考案、それを進めるための調べ学習。そして、実際に手を動かしての実験となります。この間も様々な書類の提出や世界大会に向けてのプレゼンの練習などもやっていきます。

iGEMでは、実験を開始する前に取り組む「調べ学習」に多くの時間がかかります。論文や過去に他大学が取り組んだiGEMの資料などを調べ尽くして、「これならできる」という情報が集まったところで、ようやく実験開始となります。

また、 英語によるプレゼンを先生に指導していただいたり、英語が得意な先輩に提出原稿を見ていただいたり。コロナ禍で大学構内への入構が制限されたときには、飯田先生の交渉で入構許可がいただけ、なんとか実験を進めることができました。自分たちの力が足りないところは、様々な人に手助けをお願いするなど、周りの人に支えられての1年でした。

iGEMでの発表内容について教えてください。

田代さん 鈴木さん

大腸菌を実験で扱うときの“くさい”ニオイを良い香りにできれば、もっと実験が楽しくなるのでは?と考え、研究テーマは「バニラの香りの大腸菌を作成する」にしました。バニラは安全性が高く、“香りの効果”も論文として発表されています。研究ではバニラの香りの主成分「バニリン」を作り出す酵素を、大腸菌の遺伝子に組み込む実験を繰り返しました。しかし、考えていた結果は得られず、そこに至るまでの研究プロセスと、「バニラの香りで本当に大腸菌の独特のニオイをカバーできるか」について調べた結果を大会で発表しました。

発表の際に審査の方から言われたのは「自分たちはできなかったと思っても、失敗したことも1つの結果です。失敗も君たちがやったことには変わりない。その結果を出したということが1番大事なんだから、失敗とか成功とかに関係なく、結果に着目して話して欲しい」という言葉です。実験で上手くいった・いかなかったというよりも、結果を出したことが大事であり、その結果によって別の方法でやってみようとか、この失敗の原因はなんだろうとか、そこから考えることがより重要だと分かりました。

Profile

大学院 応用化学・バイオサイエンス専攻 博士前期課程1年

(応用バイオ科学部 応用バイオ科学科 2022年3月卒業)

神奈川県立 有馬高等学校 出身

田代 恵理さん(写真左)

高校時代、当初は管理栄養士を目指して本学の管理栄養学科を志望。オープンキャンパスに参加した際に、第二志望の応用バイオ科学科のカリキュラムに魅力を感じて、進路を変更しました。趣味は、お菓子を作ること、楽器を吹くこと、映画を見ること、愛犬と触れ合うことなど。

大学院 応用化学・バイオサイエンス専攻 博士前期課程1年

(応用バイオ科学部 応用バイオ科学科 2022年3月卒業)

私立クラーク記念国際高等学校 出身

鈴木 智佳穂さん(写真右)

文系の高校に通っていましたが、生物や生命に興味がありました。高校に指定校推薦がきていたことをきっかけに、オープンキャンパスに参加。施設や設備、学習面でのサポートなどを見て自分にあっていると感じ進学を決めました。趣味は映画を観る、小説を読む、音楽を聴く、ゲーム、絵を描くなど。1つの世界に没頭するのが好きです。

銅メダル獲得について、どのように感じましたか?

鈴木 さん
ええっ!銅メダルが取れたんだ!と驚きました。評価してもらえた背景には、コロナ禍で発表がオンラインになるなど、メダルの評価基準が例年と違っているのかな?など色々考えました。
田代 さん
時差があって発表は深夜だったのですが、寝ていた親を起こして「受賞したー!」と報告しました。この年に参加していた東大や京大、早稲田大学などと同じ様に、私たちも銅メダルをいただけたということは、ものすごいことだと思っています。

iGEMでの苦労と手応えについて教えてください。 

田代 さん

苦労したことは「ほぼすべて!」(笑)。特に焦ったのは、提出物が間に合わなかったことです。とりあえず一日待ってもらい、がんばってどうにか提出できました。

ただ、大変だった分だけ、楽しくやりがいも感じていました。遺伝子を扱う実験では、1ヵ月間失敗し続けて、やっと1個成功!。成功したその1回の重みが、大変だったことをすべて吹き飛ばしてくれます。こみ上げるうれしさがモチベーションにつながりました。それと、授業で学んだ内容を活かしてiGEMですぐに実験!ということを繰り返していたので、知識と実践がつながって、頭の中にバイオ科学の大きな「ネットワーク」ができていくのを実感しました。

鈴木 さん

発表までに苦労したことは2つあり、どちらも大きな手応えにつながっています。1つ目は実験です。それまでは、教科書通りに実験をすれば、その通りの結果が得られていたのですが、iGEMは違いました。内容を理解しないまま進めていくと、実験を繰り返しても思うような結果が出せないのです。この経験から実験の目標や意味を理解する大切さを意識するようになり、授業の実験でも本当の意味で理解できるようになりました。

2つ目は英語です。読む・書く・話す能力がフルに求められたので大変でしたが、その分、英語が自分の身近なものになり自信がつきました!今でも英語の論文を読む時や海外の人とのメールのやり取りで役立っています。

また、チームのウェブページの作成では、思い通りのページができたときの達成感が大きかったです。私はこういう作業も好きだったんだ!という発見があり、やりがいを感じました。

iGEMの魅力とは?

田代 さん
言語や学力、学びの領域は違っていても、生物が好きだったり、研究が好きだったり、合成生物学を中心に集まった世界中の大学生とつながれることが、iGEMの一番の魅力だと思います。
鈴木 さん
iGEMは、合成生物学を通じて、大きく成長できる場であると考えています。チームメンバーはもちろん、先生方、他大学チームの人たち、スポンサーの方々、iGEMの運営の方たちなど本当に様々な人との繋がりが生まれ、また助けられました。
Message

応用バイオ科学科 生物制御科学研究室
教授 飯田 泰広先生

iGEM (The International Genetically Engineered Machine competition)は、合成生物学の世界大会で、世界各国から300以上の大学のチームが参加して遺伝子組換え技術を応用した研究に取り組み、発表をするイベントです。

田代さんは大学2年生の時から参加して、夏休みは毎日夜遅くまで実験をしていました。また、英語での口頭発表やポスター発表があるため、本学のイングリッシュラウンジや基礎教養センターの先生から英語を教わるなど積極的にスキルアップに励んでいました。実際ボストンでは20分間の口頭発表と1時間のポスターセッション立派にこなしていました。鈴木さんは大学3年生の時から参加しましたが、それ以前から「サイエンスカフェ」に参加するなど向上心を持って大学生活を送っていたので、iGEMに参加するようになったのは必然だったのかもしれません。

二人が中心になってメンバーを募っていこうとした矢先にコロナ禍になり、入構できないなどの制限が課されながらも、2人で挑戦し、銅メダルを獲得しました(大会はオンライン開催となりました)。発表当日、他大学や審査員の方から通常10-15名で取り組むのに、と驚かれていたのが印象的でした。Over ageになってからも後輩の指導に積極的に取り組み、明るく楽しく実験に取り組む姿勢はお手本になっていると思います。卒論を終え、二人とも大学院に進学しました。田代さんはシワやたるみを回復させることができる化粧品の研究を、鈴木さんは抗カビ活性を有する物質の探索という、それぞれがやりたかったテーマに取り組んでいます。その成果を修士1年ながら、学会で発表する予定です。これからも前向きに努力する姿勢を大切に、活躍し続けていってほしいです。

大学院への進学と研究とその後

田代 さん
化粧品のアンチエイジングを目的とした原料について基礎研究を行っています。大学院終了後は、化粧品関連の会社に研究職として就職したいと考えています。今研究している原料を世の中に出すことができたらうれしいです。
鈴木 さん
現在は、新たな治療薬を開発する基礎研究をしています。大学院終了後は、食品や化粧品など身近な商品の安全を守る仕事ができたらと思っています。

最後に、大学進学を考えている高校生にメッセージをお願いします。

田代 さん
大学生活では、いろいろ経験することで見えてくる“自分”があり、より深く自分を知ることで、今後が豊かになっていきます。たくさんの経験をして、これからずっと続く“大人”を豊かにするきっかけを作ってもらえればと思います。
鈴木 さん
私は「文系の高校の出身だから理系大学ではついていけないかも」と思っていましたが、自分の本当にやりたいことを目指してやってみた結果、今につながりました「自分には無理かも」と諦めずに、興味のある、やりたいことに“チャレンジできる環境”と出会ってください!