Side Stories
工科系大学である本学は、ものづくりに取り組むサークルや団体が多くあるのも特徴です。今回は、オリジナルの競技用電気自動車を設計・開発するフォーミュラEVチーム「KAIT Racing」に注目。年に一度行われる学生フォーミュラの大会で、上位入賞をめざすチームをリーダーとして引っぱってきたのが、渡邊久葉さん(大学院 機械システム工学専攻 博士前期課程1年)です。自動車をつくりたい一心で本学に入学したという彼女の、KAIT Racingでものづくりにかける想いをお聞きしました
車をチームで「イチから」つくりあげる難しさ
学生フォーミュラにはいろいろな魅力がありますが、「イチからみんなで車をつくりあげる」という点に私は惹かれています。つくりたい車輌の完成像を描き、部品は全て自分たちによって設計製作を行い、電気配線の取り回しや部品組み立てを進めていく・・・2年以上の時を経てようやく、私が手掛けた新規車両は完成しました。
誰かひとりががんばれば、なんとかなるわけではないのが自動車づくりの難しさです。学生フォーミュラのどのチームも、多くのメンバーで分担しながら開発を進めていきますが、私が入学した頃はチームの運営がままならず、実際の車両製作は行えていませんでした。先輩たちが引退して、私がリーダーとなった2020年の冬にはなんと、メンバーは私たったひとりになってしまいました!
今年こそ後輩たちと上位をめざしたい!
このような厳しい状況でスタートした自動車製作でしたが、「絶対に自分たちの車をつくり上げたい!」という強い想いが私にはありました。なので、あきらめずに「ひとり、またひとり」と後輩たちに声をかけていきました。そうしていくうちにチームは大きくなり、今では30人以上が所属するまでになって、車輌が開発できる体制が整ってきました。
本学のチームは2003年の第1回大会から参加しており、第2回・3回大会では2位入賞するなどの実績を残していますが、ここ数年は車輌のクオリティを上げることができず、動的審査に進めない悔しさを味わいました。今年こそは、自分たちが思い描いた車輌を走らせ、他の学校のチームと競い合うことができればと願っています。
リーダーとして重視したこと
チームでの主な私の役割は、全体をマネジメントすることでした。さまざまな学科や学年のメンバーが集まっているので、電気系・機械系・情報系というように得意分野も違います。また、空き時間も同じではないので、全員が集まって作業ができる機会は多くありません。その中で、各メンバーの強みを生かして、分担しながら車輌設計や製作を進めていけるよう計画を立て、みんなを動かしていかないといけませんでした。
そのために私が大事にしたのは、「ものづくりの楽しさ」をみんなで感じることです。
分担して作業していると、自分のやったことが「車のどの部分につながっているのか」わかりにくいこともあります。そこでメンバーには車体の組み上げなどに、できるだけ立ち会ってもらっています。できあがっていく様子を目の当たりにして、「自分がこの車の完成に携わっているんだ」と実感することで、ものづくりがどんどん楽しくなると思いますし、「みんなで絶対つくりあげるぞ!」という同じ目標に向かう結束力も生まれます。
企業にも自分たちの活動をPR
車づくりを支援してくれるスポンサー企業集めも自分たちで行いました。企業に連絡をしたり、活動についてプレゼンテーションするのは緊張しましたが、関心を持ってもらえたときや、実際に部品を提供してもらえたときの達成感はとても大きかったです。
大学院の研究と車づくり
現在大学院では「電気自動車のエネルギー効率化」に関する研究に取り組んでいます。
シミュレーションでは、ブレーキをかけたときに無駄になってしまうエネルギーを、電気エネルギーとして回収して再度走行に用いることで、少ないバッテリーでも長時間の走行が可能という結果が出ています。バッテリー容量を削減した上で既定のコースを完走させることが出来れば、軽量化も達成することができ、より優れた運動性能を得ることができます。この仮説を、学生フォーミュラでつくりあげた実際の車で実証することも、ひとつの目標です。
Profile
大学院 機械システム工学専攻 博士前期課程1年
(創造工学部 自動車システム開発工学科 2021年3月卒業)
栃木県立 宇都宮工業高等学校 出身
渡邊 久葉さん
自動車整備に携わる父親の影響もあり、小さい頃から自動車やものづくりに親しみがありました。工業高校時代の部活動で小型車両の製作をしていたときに神奈川工科大学と出会い、設備が充実していて、自動車開発を専門的に学べる大学で、学生フォーミュラを目指したいと思うようになりました。
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創造工学部 自動車システム開発工学科
助教 狩野 芳郎先生(指導教員)久葉さんは「学生フォーミュラを通じて自分を成長させる」という強い信念にすべての行動が貫かれています。
彼女は高校時代にエコラン、EVエコランを実践し、さらに高校生チームで学生フォーミュラに挑戦するために、顧問の先生と一緒に大学まで相談にきたほど積極的です。
一方では、材料力学や機械力学をはじめとする高度な知識を応用させて設計する学生フォーミュラの本質を理解し、入学後には基礎学力さらに専門科目の勉強に着実に取り組んでいました。そのうえで、人手が無いときには自分で溶接までやってしまう行動力を背景に、リーダーとして新しいメンバーを率いて、何もないところから全く新しいコンセプトの小型EVを作り上げました。この車両に、卒論から取り組んできたモータ駆動力制御を実装して、大会で結果を残すことで大学生活の夢を実現すると思いますが、さらに大きな人生の目標をみつけて活躍し続けることを楽しみにしています。
学科の仲間たちの支え
仲間が集まらない、思うように車輌がつくりあげられない、学業との両立も必要・・・学生フォーミュラの活動は、大変なことの連続でもありました。心が折れそうなとき、自分を奮い立たせてくれてきたのは、自動車システム開発工学科の仲間たちの存在です。特に同じ研究室で学ぶ同期は、それぞれがやりたいことに向かって、毎日努力を惜しまずに取り組んでいます。その様子を見ると、「自分の手で車をつくるんだ!」という、入学したときの気持ちを思い出して、またがんばろうというモチベーションが湧いてきます。自分たちの愛車で一緒にドライブをする自動車仲間であり、良き友人でもあり、互いに刺激し合うライバルのような存在がいる環境はとても貴重です。
KAIT ERIMでの友人達との出会い
実家を離れてひとり暮らしをしている私は、女子学生向けシェアハウス KAIT ERIMに入寮しています。
女子学生が少ない学科なので、ここで他学科の女子と友達になれて、楽しい時間を過ごすことができました。KAIT ERIMは大学の敷地内にあるので、アクセスも抜群で、一人暮らしをすることを心配していた両親も安心して私を送り出してくれました。
将来に向けて
自分が一番情熱を注ぎ込める「今はないものをチームでイチからつくる」ことを軸に大学院修了後の進路を考えていきたいです。私は神奈川工科大学のことが好きなので、もっとこの大学で自動車を学んで研究し続けたい気持ちもありますが、レーシングチームの車輌開発などに携わることができたら、とも考えています。企業や業界に関する情報を集めて視野を広げながら、大学院修了に向けてしっかり研究成果をあげることにも力を入れていきたいです。
古着屋でアルバイトをしていて、ファッションが大好きです!
中央のスニーカーは、NIKE×sacai×KAWSのトリプルコラボによる、Blazer lowというスニーカーです。大好きなファッションの中でも特にスニーカーにはこだわっています。
右の帽子は、アルバイトをしている古着屋さんで購入したフライトキャップです。
古着屋でアルバイトをしていて、ファッションが大好きです!
スニーカーは、NIKE×sacai×KAWSのトリプルコラボによる、Blazer lowというスニーカーです。大好きなファッションの中でも特にスニーカーにはこだわっています。
帽子は、アルバイトをしている古着屋さんで購入したフライトキャップです。
学生フォーミュラEVプロジェクト KAIT Racingとは?
神奈川工科大学 学生フォーミュラEVプロジェクト KAIT Racing は、機械工学科と自動車システム開発工学科の1、2年生が主体で、競技用EV車両の設計製作をイチから行っています。毎年9月に行われる日本大会では、車両の性能やデザインだけではなく販売を仮定したときの原価管理や市場調査も審査の対象となります。
現在チームメンバー30名ほどで、各メンバーは授業やアルバイトなど忙しい中でも時間を作ってストイックに車両製作の作業に参加しています。